相続などで所有することになった田舎の土地の使い道がなく、固定資産税の支払いや維持管理コストだけかさんでいく…というケースは少なくありません。
こうした土地を所有し続けてもメリットはなく、最悪の場合には空き地が不法投棄などの犯罪の温床になったり、行政処分や賠償請求の対象になったりする可能性があります。
不要な土地は早めに処分をしてしまった方が、将来的なリスクを減らし、メリットを増やすことができます。
この記事では、土地を処分する方法の種類やそれぞれの内容、上手く処分するコツなどを解説していきます。
土地売却は何が必要?売る流れと方法・かかる費用や税金について解説【図解付き】
証券会社で個人・法人の資産コンサルティング業務に携わり、株や為替、投資信託の売買を行う。その後システム企画・管理部署を経験。不動産会社へ転職し管理不動産の入出金管理を行う。
その後独立し、行政書士として独立開業し、会社設立・創業支援、補助金申請、相続・遺言の手続き代行など民事を中心に、FPとしては証券会社での経験を活かし資産運用や不動産関連を中心にアドバイスやセミナー、執筆活動など幅広く業務を行っている。
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土地の処分が難しい理由
不要な土地の譲渡(有償・無償含む)は、以前は時間が数年かかる場合でも、いつか引き取り手が見つかるという認識が一般的でした。
しかし、近年では、売却による処分が難しいのはもちろんのこと、無償での譲渡でも引き取り手が一向に見つからないというケースが増えてきています。
このように、以前にも増して土地の処分が難しくなっている理由はどこにあるのでしょうか。
理由1】少子高齢化・都市部への人口流出で需要が下がっている
近年、特に地方の土地の処分が難しくなっている大きな理由が、少子高齢化や都市部への人口流出です。
上記データの通り、東京など一部の都道府県を除いて、転出超過となっています。
一般的に土地や不動産の売買は、転入者が多くいることで需要が大きくなります。
こうした状況は、地方で管理の行き届かない空き地が増えている要因にもなっています。
理由2】自治体が土地を受け入れる余裕がない
かつては自治体が土地の寄付を受け入れる事例などもありましたが、近年では自治体が土地を受け入れるケースは減ってきています。
土地受け入れが減っている理由としては、前述のように地方の人口減少などで土地を受け入れて公共事業に利用する需要が減っていること、地方自治体の財源確保が厳しく土地を受け入れる余裕が無いことなどが挙げられます。
売れない土地を処分しないとかかる維持費用
土地を所有しているだけで、その所有者は費用を支払う必要性が発生します。
土地所有者にかかる費用として一般的なものは、下記の3つです。
- 固定資産税
- 都市計画税
- その他の維持管理費用
それぞれ見ていきましょう
費用1】固定資産税
固定資産税は、不動産を毎年1月1日時点で所有している人に対して課税される税金です。
課税明細書が市町村から毎年4~5月に発送されます。こちらに記載されている金額に沿って、毎月6月・9月・12月・翌2月の4回に分けて納付するのが一般的です。(一括での納付も可能)
固定資産税評価額(国の公示地価の約70%)×標準税率(年1.4%)
土地の固定資産税は、上記の計算式で求められます。
公示地価が3,000万円の場合、21,000,000×1.4%=年29万4,000円の課税が発生します。
費用2】都市計画税
都市計画法で市街化区域内にある土地・家屋に対して発生するのが、都市計画税です。
固定資産税評価額(国の公示地価の約70%)×税率(年0.3%以下※)
※市町村ごとの条例によって異なる
都市計画税は税率を最大年0.3%とし、実際の税率は各市町村によって決められます。
納付は、固定資産税と合わせておこなわれます。
費用3】その他の維持管理費用
空き地増加によって、所有者による土地の維持管理状況は今まで以上に厳しく監視されており、所有者は遠方の土地でも引き続き維持管理のために動く必要があります。
維持管理のために支払いが必要な主なコストは、下記などがあります。
- 水道代の支払い
- 電気代の支払い
- 雑草や立木の処分などにかかる費用の支払い など
売れない土地を処分する方法
土地を手放したいと思った時、まず優先で検討すべき方法が仲介売却です。
仲介売却は不動産会社(仲介業者)と契約して販売活動を委託する方法で、ほぼ時価通りの金額で高く売ることができます。
ただし、この方法は土地を気に入ってくれる個人・法人の買い手を見つける必要があるので、状態・条件の悪い土地は売れ残る可能性があります。
仲介売却で土地が売れ残ってしまった場合にも、土地の処分ができる方法はいくつかあります。
方法1】空き家バンクへの登録
空き家バンクは地方自治体が運営しているサービスで、利益の最大化を目指している不動産会社とは異なる仕組みで、要らなくなった土地と買い手をマッチングさせて、取引をさせるという目的のものです。
空き家バンクは登録制となっており、自治体提携の不動産業者と契約することで利用できるようになります。
登録する際に費用が掛かることはなく、誰でも利用することが出来るのでおすすめです。
方法2】隣家との売買や贈与
地方・郊外は人口の流入が少ないため、新しく引っ越してくる人に対して土地を売却するというのが難しい現状があります。
ただ、売却や譲渡を隣家に対しておこなうということであれば、土地面積が拡大できたり、新しく物置や倉庫を置くなどの活用ができたりするので、大きなメリットが考えられます。
仲介売却で周辺エリアに向けて物件広告を出していくよりも、取引が成立する可能性は高いです。
方法3】自治体などに寄付をする
前述の通り、自治体に土地を寄付するという形で、無償で譲渡する方法もあります。
ただし、この方法は、公共事業で使えるような立地や面積の土地でないと、受け入れられる可能性は非常に低いです。
方法4】農地を転用する
農地は簡単に売却することができず、基本的には農業を目的に活用できる農家に対してのみ売買ができます。
現在は農業従事者の人口が減少していることもあり、農地のまま売却をするのは簡単なことではありません。
農地を売却しやすくするには、農地転用を農業委員会に申し込んで、許可を貰うことで宅地などに転用するのがおすすめです。
方法5】土地信託を実施する
土地信託とは、その管理や利用を専門的な信託銀行等に委託する手法であり、土地を処分する方法の1つでもあります。
土地信託を設定すると、信託銀行が信託財産として土地を管理し、設定者の指定した目的に基づいて土地を有効的に活用してくれます。
また、信託銀行の多くは、プロフェッショナルな視点から土地の管理や活用方法を提案し、設定者や受益者の負担を軽減してくれます。
加えて、信託契約に基づいて、土地の賃貸、売却、再開発などが行われ、発生した収益は受益者に還元されます。
ただし、土地信託を設定する際には信託報酬が発生しますので、その費用対効果をしっかりと検討する必要があります。
方法6】相続放棄をする
相続が開始した場合,相続人は次の三つのうちのいずれかを選択できます。
- 相続人が被相続人(亡くなった方)の土地の所有権等の権利や借金等の義務をすべて受け継ぐ単純承認
- 相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がない相続放棄
- 被相続人の債務がどの程度あるか不明であり,財産が残る可能性もある場合等に,相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ限定承認
相続人が,2の相続放棄又は3の限定承認をするには,家庭裁判所にその旨の申述をしなければなりません。
いらない土地は売りに出す人が多いです。ただ、土地の価値は立地や面積・形状によって値段に大きな差があります。
地方の土地を高額で売るのは難しいですが、都心の一等地のような誰もが欲しがる土地では、簡単に売却することが出来ます。
土地の利用価値がなく、今後も利用する予定がないと断言出来れば、相続放棄してしまうのも一つの手です。
ただ注意点として、相続放棄は遺産のすべてが放棄の対象となってしまうため不要な土地だけ相続放棄するといったことは出来ません。
相続を放棄する際は、その他の資産も確認して総合的に見た上で損得勘定をすることが大切です。
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方法7】「相続土地国庫帰属制度」を活用する
「土地を相続したが活用計画がない」や「管理コストが大きい」などの理由から、土地を手放したいという考えを持つ方が増えつつあります。
そのニーズに応えるべく新設されたのが、相続土地国庫帰属制度という制度です。
この制度は、令和5年4月27日から施行されたもので、先ほど紹介した考えに対して、一定の管理費用を負担してもらう代わりに土地の所有権を国庫に帰属することを認めるという制度です。
相続土地国庫帰属制度は、以下のフローを経て承認及び国庫への帰属となります。
- 国庫帰属への承認申請
- 法務局による書面調査
- 法務局による実地調査
- 法務大臣・管轄法務局局長による承認
- 負担金の納付(通知書受け取りから30日以内)
- 国庫への帰属
処分できない土地の活用方法
前述の通り、国や自治体が土地の寄贈受け入れをするケースは減ってきているため、いつまでも土地を手放せない事態が多くなっています。
このような状況が長く続き、所有者の高齢化などでどこかの時点で放置されるようになったのが、現在の国内の空き地数の増加の大きな要因となっています。
手放すのが難しい土地に関しては、土地活用をおこない、収益化を図るのも一つの手です。
土地活用の方法については、下記などが代表的です。
土地活用の方法 | 初期投資・費用 | 回収の速さ | 転用性 | リスク | 利益 |
---|---|---|---|---|---|
マンションの経営 | 超高額(土地活用の中で最も初期投資がかかる) | 速い(入居者がいれば毎月一定の賃料収入) | △ | △ | 超高額 |
アパートの経営 | 高額 | 速い(入居者がいれば毎月一定の賃料収入) | △ | △ | 高額 |
戸建ての賃貸経営 | 高額(相続物件を活用するならリフォーム代のみで済む) | 契約内容によって異なる | △ | △ | 低額(マンション、アパートに比べると1、2世帯に貸し出すのが限度) |
賃貸併用住宅 | 超高額(相続物件を活用するなら抑えることは可能) | 契約内容によって異なる | △ | △ | 低額(1、2世帯に貸し出すのが限度) |
サ高住(サービス付き高齢者住宅) | 高額(相続物件を活用してもリフォーム代+機材導入費) | 契約内容によって異なる | △ | △ | サービス内容によって異なる |
事業用賃貸の経営 | 高額(相続物件を活用するならリフォーム代のみで済む) | 短期(相手が法人だと長期契約になりやすく、期限も順守されやすい) | △ | △ | 高額(個人に貸し出す場合より高額で契約しやすい) |
駐車場経営 | 低い | かなり速い(契約時にお金をもらえる) | ○(途中で物件を建てる、売却するのが容易) | 特になし | 低額(1件あたりの単価が低い) |
トランクルーム経営 | 低い(小規模のものであれば100万円以下から開始できる) | 速い(入居者がいれば毎月一定の賃料収入) | △ | △ | 低額(アクセスの良い場所であれば高額利益を見込める) |
太陽光発電事業 | 低い(規模が大きくなるほど高コストになる) | 契約内容によって異なる | ○(パネルを撤去すればすぐ転用できる) | 特になし(立地に関わらず一定額の収入を得られる) | 20年間は固定買取価格が一定 |
貸地 | 低い | 遅い | ケースによる(相手に利用法を一任) | △ | 契約内容によって異なる |
自動販売機の設置 | 低い(小規模のものであれば100万円以下から開始できる) | 販売数による | ○ | ✖ | 比較的低額 |
医療施設の経営 | 高額(相続物件を活用してもリフォーム代+機材導入費) | 速い(入居者がいれば毎月一定の賃料収入) | △ | △ | 高額 |
老人ホームの経営 | 高額(相続物件を活用してもリフォーム代+機材導入費) | 速い(入居者がいれば毎月一定の賃料収入) | △ | △ | 高額 |
グループホームの経営 | 高額(相続物件を活用してもリフォーム代+機材導入費) | 速い(利用者がいれば毎月一定の賃料収入) | △ | △ | 高額 |
土地信託 | 低い( 信託報酬※土地信託で得られた収益の5~20%程度の支払いは必要) |
契約内容によって異なる | △ | △ | 契約内容によって異なる |
土地の寄付・譲渡 | 低い | 寄付のため収益無し | ✖ | ✖ | 寄付のため収益無し |
土地活用は、その土地の立地や特性に合わせて自由にプランを設定できるので、上記以外にも様々な方法が考えられます。
土地活用について相談すると、それぞれの土地の調査をおこなって最適なプランを提示してくれます。気になる方は各不動産会社のプランを複数請求して比較しましょう。
いらない土地を処分する際のよくある質問
ここでは、いらない土地を処分する前に知っておきたいことや解決しておきたい疑問を質問形式で解説して行きます。
土地処分を行うときにかかる費用は?
まず、不動産業者による仲介手数料が必要です。
これは通常、売却価格の3%+6万円(消費税別)と定められています。
次に、売却によって得た利益に対して、所得税と住民税の売却益税が課税されます。
詳細な税率は状況により異なりますが、通常は15%(所得税)+5%(住民税)の合計20%となります。
また、売却時には登記手続きも必要で、このための司法書士報酬や登記費用も必要です。
これらは売却価格や登記内容により変動します。
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売却しにくい狭小地を高く・早めに売却するには?
まず、土地を売却するためのマーケティングを強化することが重要です。
これには、売却先となりうる目標層を特定し、その層が求める可能性がある利用方法を提案するなどがあります。
また、不動産業者を活用する際には、その土地に詳しい、または特殊な物件を扱うことに慣れた業者を選ぶことが効果的です。
最後に、土地の価値を高めるためには、区画整理や土地の開発を行うことも有効な手段となります。
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土地の一部分だけを売却することはできる?
これは、土地の分筆登記と呼ばれる手続きが必要になるためです。
分筆登記は、一つの土地を二つ以上に分割する登記のことを指します。
これにより、一部の土地の所有権を移転することができます。
しかし、分筆登記には費用がかかりますし、また地方自治体の条例によっては、一定の面積未満の分割が許可されない場合もあります。
土地の所有権を放棄もしくは国に返還することは可能?
法律上、所有権を放棄するには、所有権を移転する相手が必要です。
また、国に土地を返還(寄付)するのは可能ですが、これを実行するには国や地方公共団体がその土地を受け取る意思があるかを確認しなければなりません。
一部の国や地方公共団体は、公益性の高い目的のために土地を受け取る制度を設けていることもありますが、具体的な手続きや条件はそれぞれ異なります。
いらない土地を有効活用して成功させるには?
一つは、賃貸物件として利用することです。
駐車場や倉庫、マンションなど、土地の大きさや立地によって適切な投資を行うことで、安定した収入を得ることが可能です。
また、ソーラーパネルなどの再生可能エネルギー設備を設置し、電力を売るという手もあります。
さらに、アグリビジネスや観光ビジネスに活用することも考えられます。
ただし、これらの活用方法は初期投資や維持管理費、リスクなどを慎重に考慮する必要があります。
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土地の最適な処分方法は状況によって異なる
土地を手放す場合におすすめの方法は、もちろん寄付より売却です。
しかし、半年以上の期間がかかることが見込まれるので、税金などのコストがかかってしまいます。
また、相続で得た土地であれば、複雑な権利関係に悩み、いち早く手放したいと考える方も多いでしょう。
基本的には売るという方向で間違っていませんが、想定される利益によっては寄付するといった柔軟な対応も重要です。