農地を売却しようと考えてもいくらで売れるのかが分からなければ、判断や計画を立てるのは難しいものです。
周囲に農地を売却した人がいなければ、価格の目安が掴めず、不動産業者に相談すべきか迷ってしまうこともあるでしょう。
この記事では、実際の統計データに基づいた農地の売却相場を紹介しながら、自分で価格を調べるための具体的な方法についても解説します。
農地の売却価格相場はどれくらい?
農地の価格は地目や立地、周辺環境などに大きく左右されるため、画一的な基準で判断するのは困難です。
しかし、全国農業会議所が毎年まとめている「田畑売買価格等に関する調査結果」を確認することで、ある程度の平均相場を把握することができます。
この統計では、「中田(ちゅうでん)」=比較的条件の良い水田と、「中畑(ちゅうはた)」=一般的な畑地に分けて価格が記載されています。
以下では、この分類に沿って田んぼ・畑それぞれの売却相場を紹介します。
田んぼ(中田)の売却相場
中田とは比較的整備された水田を指し、周辺のインフラや区画条件が良好な農地として分類されています。
全国農業会議所の調査によると、平成30年時点における中田(田んぼ)の全国平均売却価格は1,182千円/10a(=約118.2万円/1,000㎡)となっています。
| ブロック | 平均価格 | 増減率(2018年) | 増減率(2017年) |
|---|---|---|---|
| 全国 | 1,182 | △1.4 | △1.2 |
| 北海道 | 247 | △1.1 | △1.1 |
| 東北 | 572 | △1.2 | △1.9 |
| 関東 | 1,521 | △1.6 | △1.5 |
| 東海 | 2,283 | △1.0 | △1.7 |
| 北信 | 1,359 | △1.9 | △1.3 |
| 近畿 | 1,968 | △0.6 | △0.4 |
| 中国 | 746 | △1.5 | △0.5 |
| 四国 | 1,726 | △1.2 | △1.4 |
| 九州 | 874 | △1.8 | △1.1 |
| 沖縄 | 890 | 0.0 | 0.0 |
特に価格が高い地域は、東海(約228万円)や近畿(約197万円)であり、都市近郊の立地条件が影響していると考えられます。
反対に、北海道(約24万円)や東北(約57万円)などでは農業専用地としての需要が高いため、価格は大きく抑えられています。
売却価格は地目や広さだけでなく、周辺の地価や転用の可能性などによっても変動するため、平均値はあくまで参考として扱うことが重要です。
畑(中畑)の売却相場
中畑とは田んぼではなく畑地として利用されている農地のうち、一般的な立地・条件にあるものを指します。
全国平均では、平成30年時点で872千円/10a(=約87.2万円/1,000㎡)と、田んぼ(中田)よりもやや低めの相場となっています。
| ブロック | 平均価格 | 増減率(2018年) | 増減率(2017年) |
|---|---|---|---|
| 全国 | 872 | △1.2 | △1.1 |
| 北海道 | 117 | △1.3 | △1.3 |
| 東北 | 343 | △1.3 | △1.4 |
| 関東 | 1,630 | △0.9 | △1.0 |
| 東海 | 2,062 | △0.8 | △1.8 |
| 北信 | 931 | △1.8 | △1.2 |
| 近畿 | 1,404 | △0.5 | △0.4 |
| 中国 | 439 | △1.8 | △0.4 |
| 四国 | 952 | △0.8 | △1.4 |
| 九州 | 874 | △1.6 | △0.8 |
| 沖縄 | 1,288 | △0.2 | 2.0 |
特に高値で取引されているのは、東海(約206万円)や関東(約163万円)など都市圏に近い地域です。
反対に、北海道(約11.7万円)や東北(約34万円)では農業専用の用途が中心であり、需給バランスの影響から価格が大きく抑えられる傾向にあります。
なお、畑は水利設備が不要な分だけ取扱いが簡単とされますが、農地転用の可能性や市街地への近さによって、相場には大きなばらつきが生じます。
農地価格が安くなる背景とは
農地の売却価格は宅地や商業地に比べて著しく低い傾向があります。これは単に地価の問題ではなく、農地特有の制約や市場環境が複合的に影響しています。
特に郊外や農村部に多く見られる純農業地域では、需要が限定されるため、価格が上がりにくい構造になっています。
- 都市部に比べて立地条件が不利なケースが多い
- 農業従事者の減少により、農地の需要が縮小している
- 農産物の価格低迷により、農業収益性が下がっている
- 農地法によって用途や売却先が制限されている
また、農地は基本的に農家や農業法人にしか売却できない仕組みとなっており、自由に市場で売買できない点も価格の低迷に拍車をかけています。
転用(宅地など他の用途への変更)が認められない限り、農地はあくまで農地としてしか使えないため、「土地」としての評価は限定的にならざるを得ません。
そのため、農地の売却では「どんな地域で」「どんな条件の土地か」を正しく見極めることが価格の見通しを立てるうえで極めて重要です。
都市部と郊外で異なる農地の売却相場
農地の売却価格は、同じ地目でも立地によって大きく差が出るのが特徴です。
特に、都市計画区域内にある農地と、郊外や農村部にある農地とでは、市場価格に数倍の開きがあることも珍しくありません。
以下では、都市部・郊外それぞれの農地について、価格相場の傾向や背景を詳しく見ていきます。
また、市街化区域に該当するかどうかや、周辺の開発状況なども相場に大きく影響するため、所在地ごとの比較が重要です。
都市部にある農地の売却価格の傾向
都市部にある農地は、周辺に住宅地や商業施設が広がる市街化区域内に位置していることが多く、相場も郊外に比べて高めに設定される傾向があります。
全国農業会議所の統計によれば、平成30年時点での都市部の中田(田んぼ)の全国平均価格は3,176千円/10a(=約317.6万円/1,000㎡)と、郊外の約3倍に達しています。
| ブロック | 平均価格 | 増減率(2018年) | 増減率(2017年) |
|---|---|---|---|
| 全国 | 3,176 | △1.4 | △1.3 |
| 関東 | 1,811 | △1.9 | △1.2 |
| 東海 | 6,668 | △1.0 | △1.7 |
| 近畿 | 3,518 | △1.2 | △1.4 |
| 中国 | 4,017 | △0.2 | △0.4 |
| 四国 | 4,583 | △2.4 | △2.6 |
特に東海(約667.8万円)や四国(約458.3万円)などでは、近隣の宅地相場に引っ張られる形で農地価格が高騰するケースも見られます。
ただし、これは農地自体の価値が高いわけではなく、多くの場合で将来的な宅地転用の期待値や、立地利便性が評価されていることによるものです。
そのため、同じ都市部であっても、転用が困難な農地は価格が抑えられる傾向がある点には注意が必要です。
郊外・農村部にある農地の売却価格の傾向
郊外や農村部にある農地は、一般的に農業目的の利用が中心となるため、都市部に比べて売却価格が大きく下がる傾向にあります。
全国農業会議所の調査では、平成30年時点の中田(田んぼ)の全国平均価格は1,182千円/10a(=約118.2万円)、中畑(畑)の全国平均は872千円/10a(=約87.2万円)とされています。
| エリア | 田の平均価格 | 畑の平均価格 |
|---|---|---|
| 北海道 | 247 | 117 |
| 東北 | 572 | 343 |
| 九州 | 874 | 874 |
これらの地域では、需要が農業関係者に限られるうえ、買い手不足も深刻化していることから、地価が上がりにくい構造が続いています。
また、郊外の農地は市街化調整区域にあることも多く、宅地転用のハードルが高いため、実際の取引価格はさらに低くなる場合もあります。
農地を手放す側としては、こうした立地や制度的制限も考慮しながら、現実的な価格帯を把握しておく必要があります。
農地の立地や転用可能性による価格差
農地の売却価格を大きく左右する要素のひとつが、立地条件と転用可能性です。
同じ農地でも市街地に近い場所や主要道路沿いにある場合、宅地への転用が可能であれば価格が大幅に上昇することがあります。
たとえば、以下のような条件がそろっていれば転用目的の購入希望者が現れやすく、相場を上回る価格での売却が期待できます。
- 市街化区域または準都市計画区域内にある
- 周辺に住宅地・商業施設・駅などが立地している
- 土地が整形で、面積が適度にまとまっている
- 水道・ガス・下水などのインフラが整っている
一方で、農地法により転用が難しい地域(市街化調整区域など)では利用目的が農業に限定されるため、価格は低く抑えられる傾向にあります。
そのため、売却を検討する際には、単に「農地であるかどうか」だけでなく、「その農地が将来どう使えるか」という観点での評価が重要です。
農地の売却価格の相場を自分で調べる方法
ここまで、全国や地域別の農地相場を紹介してきましたが、実際の売却では個別の農地の状況に応じた価格判断が必要になります。
というのも、農地は形状・立地・面積・地質・周辺環境などが一つひとつ異なり、画一的な価格で比較するのが難しいからです。
そのため、相場を「自分で調べる」手段を知っておくことが、売却の第一歩として非常に重要です。
ここでは、農地の価格相場を個別に確認できる代表的な方法として、以下の3つを紹介します。
方法1】不動産ポータルサイトで売出価格を確認する
まず最も手軽に農地の相場を確認できるのが、不動産ポータルサイトでの検索です。
たとえば「SUUMO(スーモ)」「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」「アットホーム」などの大手サイトには、農地として売りに出されている物件も多数掲載されています。
サイト内で「土地」カテゴリーを選び、地目を「畑」や「田」に指定して、地域名や面積条件などで絞り込むと、周辺地域での農地売出価格を確認することができます。
- SUUMO:https://suumo.jp
- LIFULL HOME’S:https://www.homes.co.jp
ただし、これらに掲載されている価格はあくまで売主側の希望価格(売出価格)であり、実際の成約価格とは異なる場合があります。
実勢価格とのギャップが大きいケースもあるため、参考情報として複数件の平均をとるなど、慎重な見極めが必要です。
方法2】不動産ジャパンで全国の相場を比較する
売出価格だけでなく、より客観的かつ公的な情報をもとに相場を確認したい場合は、「不動産ジャパン」の活用がおすすめです。
不動産ジャパンは、国土交通省・公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会などが運営する不動産情報サイトで、全国の売買・賃貸物件情報を包括的に提供しています。
- 全国の売出物件が対象(農地含む)
- レインズ相当の広範な情報を閲覧可能
- 公的機関が関与しているため信頼性が高い
たとえば、「市区町村」「地目」「面積」などで検索をかけることで、該当エリアの農地売出事例を一覧で確認できます。
なお、成約価格の情報までは得られませんが、民間ポータルサイトと比較して物件情報の網羅性と中立性に優れている点が大きな利点です。
詳細は以下の記事も参考にしてください:
方法3】不動産一括査定サイトで複数業者の見積もりを取る
より正確に自分の農地の売却相場を知りたい場合は、不動産一括査定サイトを活用して不動産会社に直接査定してもらう方法が効果的です。
不動産一括査定サイトでは、物件情報や所在地を入力するだけで、地域の不動産会社数社から無料で査定価格を受け取ることができます。
実際の価格は各社の査定結果によって異なりますが、複数社の査定を比較すれば相場の目安が見えてきます。
- 1回の入力で最大6社程度から見積もり取得が可能
- 地元に強い不動産会社が提案してくれるケースもある
- 費用は完全無料。売却前の情報収集にも最適
また、査定価格に加えて「どのような条件なら高く売れるか」などのアドバイスも受けられるため、初めて農地を売る方にも有益です。
まだ売却を決めていない段階でも利用できるため、情報収集の一環として気軽に使えるツールといえるでしょう。
農地を売却する前に知っておきたいポイント
農地を売る際は、相場を調べるだけではなく、法律・制度面の制約や手続きの流れについても理解しておく必要があります。
農地は宅地などとは異なり、自由に売買できないという点が大きな特徴です。適切な準備や確認を怠ると、売却自体が成立しないこともあるため注意が必要です。
以下では、農地を売却する前に押さえておきたい代表的な注意点を3つ紹介します。
ポイント1】農地の売却には原則として許可が必要
農地を売却する際は、農地法第3条に基づく許可が原則として必要です。これは、農地のまま別の所有者に移転する場合に適用されます。
第三条 農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。
引用:e-Gov 法令検索
売却先が農業を継続する個人や法人であり、かつ市町村が認めた耕作者であることが要件となっているため、売れる相手が限定される点に注意が必要です。
また、農地を住宅地や駐車場など、農業以外の目的で利用する場合には、農地法第5条に基づく転用許可が別途必要になります。
- 農地法第3条に基づく許可:農地のまま売買する場合に必要
- 農地法第5条に基づく許可:農地を宅地等に転用して売る場合に必要
これらの許可は、原則として農業委員会を通じて申請・審査が行われます。
手続きには1〜2か月ほどかかることもあり、条件を満たさない場合には許可が下りないこともあるため、事前の確認が重要です。
ポイント2】宅地転用や相続税評価にも影響する
農地の売却を検討する際は、将来的な宅地転用の可能性や、相続税評価額との関係も考慮しておく必要があります。
農地は地目のままでは利用者が限られるため、宅地に転用できるかどうかで価格に大きな差が生まれます。
たとえば、都市計画区域内の市街化区域にある農地であれば、比較的スムーズに宅地転用が可能で、売却価格も宅地並みに近づく傾向があります。
一方、農地のまま保有している場合、相続時には農地の評価減制度(農地評価)が適用されることがあります。
この制度により、宅地に比べて相続税評価額が低くなるため、相続前に売却すると税負担が上がる可能性も出てきます。
- 宅地転用可能な農地は価格が高くなりやすい
- 農地のまま相続すれば、評価減による節税が可能
- 相続後の用途計画によって、売却タイミングの見極めが重要
農地の売却は単なる価格だけでなく、将来の相続や活用方針とも連動して考える必要があります。
ポイント3】相場調査で売るかどうかの判断材料を得る
農地の売却を決断するには、まず「いくらで売れるのか」を知ることが出発点になります。
不動産ポータルサイトや不動産ジャパン、一括査定サービスなどを活用して、自分の農地の大まかな価格帯を把握しておけば、「今すぐ売るか」「保有を続けるか」「相続に備えるか」といった方針を判断するための材料になります。
相場の把握は、売却の意思決定に限らず、所有農地を売るのか、所有し続けて活用するかを考えるうえでも重要です。
まずは可能な範囲で情報収集を始めておくことが、後悔のない判断につながります。
ポイント4】農地査定に対応していない一括査定サイト・不動産会社も多い
農地の査定を依頼したい場合、査定に対応していない不動産一括査定サイトも少なくありません。
農地の査定が難しい理由は、サイトの登録業者が仲介に対応していない、または敬遠しているためです。
農地は転用をするのに許可が必要で、かつ転用をしてもアクセス的に活用の余地が少ない、または活用しようと考えている人の数が少ないことから、売却が非常に難しいです。
更に近年では、近隣との取引件数(農地移動件数)も低下しています。
不動産一括査定サイトには依頼フォーム内に「農地」と選択できるものもありますが、実際には依頼できないケースもあるため注意が必要です。
![GRO-BELラボ[株式会社グローベルス]](http://gro-bels.co.jp/labo/wp-content/uploads/2024/08/ラボ ロゴ-02-1.jpg)








