相続した実家をそのまま放置する空き家問題が社会問題となっています。
放置しておけば倒壊や害獣の発生などで近隣に迷惑がかかりますし、国土の狭い日本において有効活用できていない土地があるというのは政治的な課題でもあります。
個人(空き家の所有者)にとっても、いらない空き家を早めに売ることは大きなメリットがあります。手続きを面倒くさがらず、早期対策することをおすすめします。
今回は、空き家を売るのがおすすめな理由と売却方法を分かりやすく解説していきます。
空き家を売却する方法
空き家を売る方法は、大きく分けると以下の3つです。
それぞれの違いを見ていきましょう。
建物と土地をセットで売る
空き家の建物部分と土地(敷地)部分を所有している場合、最もオーソドックスなのは建物と土地をセットで売却する方法です。
建物部分と土地部分の価値を合わせた価格が成約価格となるため、比較的高値で取引をしやすい方法です。
ただし、この方法は建物部分にある程度の価値が残っている前提でのやり方となります。
上記グラフにもあるように、戸建て住宅の建物部分は築20年を過ぎたタイミングで価値がほぼ0になります。このような状態の空き家(+土地)は、古家付き土地として売却するのが一般的です。
古家付き土地として売る
建物の価値がほぼ0になった場合は、建物+土地ではなく、土地に処分前提の残置物(建物)があるという認識(古家付き土地)のもと、売却するのがおすすめです。
この状態の場合は、実質的に土地の取引となります。
建物部分は成約価格に反映されませんが、残置物とすることで建物内部の欠陥などを考慮せず売りに出すことができます。
空き家を解体・更地化してから売る
すでに価値の無くなったを売主主導で解体・更地化してから売る方法もあります。
古家付き土地として売却する場合は買い手が建物部分を解体する前提で進めますが、事前に解体してしまうことで、様々な用途にも利用しやすくなり、成約率が上昇します。
ただし、建物の解体では高額な費用の支払いが必要になるため、ほとんどの場合はこの方法での売買は実施されません。
木造建築 | 鉄骨造建築 | RC・SRC造建築 | |
---|---|---|---|
20坪 | 60万円~100万円 | 80万円~120万円 | 120万円~160万円 |
30坪 | 90万円~150万円 | 120万円~180万円 | 180万円~240万円 |
50坪 | 150万円~250万円 | 200万円~300万円 | 300万円~400万円 |
60坪 | 180万円~300万円 | 240万円~360万円 | 360万円~480万円 |
100坪 | 300万円~500万円 | 400万円~600万円 | 600万円~800万円 |
空き家を売却せず放置するリスク
リスク1】固定資産税がかかり続ける
全ての不動産所有者に対してかかるのが、固定資産税です。
固定資産税は、1月1日段階の不動産所有者に対して課される仕組みになっています。
つまり、使っていない空き家でも所有している限り固定資産税が毎年かかってしまいます。
空き家を早く売ることで、かかり続ける固定資産税のコストを早めにカットすることができるのです。
特に近年、空き家の基準として、従来の特定空き家の他に、管理不全空き家という区分が親切されました。
特定空き家 | 管理不全空き家 | |
---|---|---|
区分の根拠 | 「空家等対策の推進に関する特別措置法」(平成27年5月施行) | 「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律」(令和5年12月施行) |
認定の条件 |
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|
特定空き家は全く管理されておらず、かつ放置するリスクがある物件が対象になっていますが、管理不全空き家は、定期的に管理されている空き家も場合によっては対象になります。
特定空き家・管理不全空き家に認定された場合、住宅用地の特例措置が外され、固定資産税は従来の6倍、都市計画税は従来の3倍で算出されます。
住宅用地には課税標準の特例措置が設けられており、税負担が軽減されています。住宅用地の特例措置を適用した額(本則課税標準額)は、住宅用地の区分、固定資産税及び都市計画税に応じて下表のとおり算出されます。
用地 区分 固定資産税 都市計画税 小規模住宅用地 住宅用地で住宅1戸につき200m2までの部分 価格 × 1/6 価格 × 1/3 一般住宅用地 小規模住宅用地以外の住宅用地 価格 × 1/3 価格 × 2/3
リスク2】近隣トラブルが発生しやすくなる
空き家をそのまま放置していると、どんな状態になっているのか把握しにくくなってきます。
もしかしたら雑草が延びて近隣の家へ越境しているかも知れませんし、悪臭が発生して被害を及ぼしているかも知れません。
この被害が甚大になれば、賠償を請求される可能性だってあります。苦情を受ける前に、早めに処分してしまうことをおすすめします。
リスク3】犯罪や事故に巻き込まれやすくなる
空き家を放置する最悪のケースが、反社会的勢力のアジトになってしまうことです。
殺人事件や放火などを空き家で起こされてしまえば、所有者にも管理責任が及んでしまいます。
データ上でも、空き家の多い地域のほうが犯罪発生率は高くなっています。
リスク4】処分したくてもできない「負動産」状態になる
空き家を放置すればするほど、状態は悪化し、築年数が経過するほど買い手はつきにくくなります。
特に、木造住宅は築年数の経過によって内部の腐敗なども進みやすく、リフォームする場合は再建築するくらいのコストが発生してしまいます。
近年、リフォームも出来ず、買い手もつかないいわゆる「負動産」が増えて問題になっています。
特に地方では、こうした状態の空き家を、「タダでいいから誰かに譲りたい」というニーズが増えています。
空き家を売る流れ【8Step】
空き家を売る流れは、一般的にこちらの8ステップとなります。
築浅物件だと全ての手続きが完了するまで平均3~6か月と言われています。
しかし状態の悪い空き家の場合は、売れるまで1年前後かかるケースも多いです。
3か月分の計画しか立てておらず、途中で売却が頓挫しないように、失敗することも想定したプランが必要になります。
Step1.不動産会社に相談・査定依頼
まず査定を依頼する不動産会社を見つけます。空き家に強い不動産会社に査定を依頼しましょう。
近隣の不動産会社に依頼することも可能ですが、複数の不動産会社に相談することによって最適の不動産会社を見つけられます。
「売ろうか迷っている」と思った人は、不動産一括査定サイトを活用するとスムーズに不動産会社選びから契約までを進められます。
Step.2査定・業者選び
複数の不動産会社を選んだら査定を依頼します。
査定価格を見て、最適の価格で売却してくれる不動産会社に依頼しましょう。
他社の価格より大きな金額で提示してくる不動産会社は、わざと金額をつり上げて依頼を獲得し、いざ売る時に他社と同じ価格で売却価格を設定してくるケースもあります。
査定結果の内訳も細かく売主に伝えてくれるか、担当と話しをした上で不動産会社を決めましょう。
Step3.媒介契約
査定額に納得して問題がなければ媒介契約をおこないます。
媒介契約は空き家をどの様な条件で売却して、成功した時にいくら支払うか定めているものを指し、不動産会社に仲介してもらう時は必ず媒介契約をおこないます。
媒介契約は3種類あるので、売主の売却目的に合った媒介契約を結びましょう。
契約の種類 | 契約の有効期間 | 売り手自身が買い手を見つけること | 依頼可能な業者数 | 仲介業者からの報告 ※規定されてい最低限の回数であり、実際の連絡回数は業者によって異なる |
---|---|---|---|---|
専属専任媒介契約 | 3ヶ月以内 | できない | 1社のみ | 1週間に1回、メールか文書で連絡 |
専任媒介契約 | 3ヶ月以内 | できる | 1社のみ | 2週間に1回、メールか文書で連絡 |
一般媒介契約 | 3ヶ月以内 | できる | 複数社と契約可能(契約数の上限なし) | なし |
Step4.売却活動・部屋のクリーニング
媒介契約が終われば、売却活動に移ります。
買主が内覧することもあるので、売却予定の空き家はクリーニングしておきましょう。
不要な家具が残っている場合は、回収業者に依頼することをおすすめします。
Step4. 内覧対応
買取希望の買主が現れると、空き家の内覧対応をおこないます。
売主も参加するのが一般的なので、予定を調整しておきましょう。
Step5.売買契約
売却価格について買主と相談して、問題なければ売買契約を結びます。
多くの買主は値引きを希望するので、値引きも折込済みの価格を提示しておきましょう。
空き家売却を成功させるポイント
売れるタイミングで売却をする
近年は地価が高騰しているので、不動産を売るベストタイミングだと言われています。
しかし、空き家の場合はそもそも需要が少なく、個別のニーズに訴えたほうが早く売れるので、この通りではありません。
金融状況の変化よりも新駅の開通や道路工事などによりアクセスがどうなるかをチェックしておきましょう。
都市部へのアクセスや買い物などの利便性が高まるタイミングで売ると、高く早く売れやすいです。
- 季節
- 物件の築年数
- 税金
- ローン金利の変化
- 不動産の価格相場の変化
- ライフスタイルの変化
空き家売却が得意な不動産会社に依頼する
不動産会社の中には、仲介物件はマンションや投資物件が100%で、住まい用の一戸建て売却に対応していないケースも多いのです。
更に状態の悪い空き家となると、対応できる業者は少なくなっていきます。まずは空き家の売却に対応している業者はないか探していきましょう。
内覧準備をプロに依頼する
次に重要なのが、空き家の第一印象です。
相手も不動産の素人である他、「住みよさ」というあいまいな基準で物件選びをしているので、築年数や面積といった数値よりも見栄えの良さが結果を左右するケースは多々あります。
特に玄関や水回りは第一印象に大きくかかわるので、プロのハウスクリーニング業者に依頼するのも一つの手です。
空き家売却でかかる税金・費用
空き家売却でかかる税金は、こちらの3種類です。
せっかく高く売れたと思っても税金で引かれてしまい、目標額に至らなかったら元も子もないですよね。
最初にいくら税金がかかるかのチェックと節税方法を確認した上で空き家売却に取り組むようにしましょう。
ここからは、3つの税金についてそれぞれ詳しく解説していきます。
→家を売るときにかかる税金はいくら?計算方法・節税対策を紹介
印紙税
印紙税とは、国や自治体に対して安全・公正な不動産取引を担保してくれた見返りとして支払う税金のことです。
印紙税はその名の通り、売買契約書に課税額分の印紙を貼り付けて納付します。
課税額は、空き家の売却価格に応じて以下のように決まっています。
不動産売却代金 | 印紙税額 |
---|---|
100万円以下 | 500円 |
500万円以下 | 1,000円 |
1,000万円以下 | 5,000円 |
5,000万円以下 | 10,000円 |
1億円以下 | 30,000円 |
印紙はコンビニなどでも手に入りますが、高額印紙は準備していないことが多いので、郵便局で購入するのが一般的です。
2022年5月に宅地建物取引業法が一部改正され、売買契約も電子契約で対応可能になってからは、電子契約であれば印紙税は支払う必要がありません。
法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。
国税庁HP 「第7節 作成者等」((作成等の意義))
登録免許税
空き家を売買したら、公式に所有者名義を売主から買主に変更しなければいけません。
これを所有権移転登記と言いますが、この際に登録免許税という税金がかかります。
登録免許税は、課税額が以下のように決まっています。
不動産タイプ | 課税額(売買時) |
---|---|
建物 | 不動産の価額※の1,000分の20 |
土地 | 不動産の価額※の1,000分の20 |
※不動産の価額:原則、固定資産課税台帳に登録された価格になる。登録された価格がない場合は、登記官が認定した価格となる。
空き家を立て壊さず売るのであれば、建物と土地2つ分の税金がかかるので注意しましょう。
また、所有権移転登記は司法書士に依頼することが多いですが、この際に依頼料が1万円ほどかかります。
依頼料がもったいないので自力で登記する方もいますが、失敗した時のリスクが大きいので司法書士に依頼してしまうのが安心ですよ。
譲渡所得税
空き家の売却価格が購入時よりも高額の時には、譲渡所得税という税金が発生します。
譲渡所得税は、以下のような計算式で求めることができます。
注意してほしいのが税率で、所有期間(取得日から売却年の1月1日まで)が何年の時に売ったかによって大きく変化します。
税区分 | 不動産の所有期間 | 所得税※ | 住民税 |
---|---|---|---|
短期譲渡所得 | 5年未満 | 30.63% | 9% |
長期譲渡所得 | 5年以上 | 15.315% | 5% |
※所得税に復興特別所得税2.1%を上乗せ
譲渡所得税が発生したら、引き渡した翌年の2月16日~3月15日※に確定申告をして納付をします。
※該当日が土日祝日の場合は、別日に調整される
空き家を売る際の注意点
ここまで空き家を売るメリットなどを解説しましたが、空き家を売却するのは決して簡単ではありません。
普通の家に比べて劣化している可能性も高く、売れるまでに時間と労力がいるので覚悟が必要です。
また、一定期間放置していた家を売るとなると、最初にやるべきこともたくさんあります。
まず、どんな点をチェックして売却を進めるべきなのかを紹介していきます。
注意点1】事前に権利関係を確認する
まずチェックしたいのが、空き家の正しい権利関係です。
これは分かっているつもりでも、勘違いしているケースが多いので注意しましょう。
原則として、不動産売却は権利者が1人の場合に、その人が責任をもって手続きを進めることになります。
夫婦や兄弟、親族間の共同名義になっている場合は、満場一致で売ることに賛成していないと売却をすることはできないので注意しましょう。
注意点2】現況を自分の目で確認する
実家が遠方にある場合も、できれば売却前に目視でチェックしておきましょう。
庭の雑草が伸び切っており酷い有様なのに、遠方で「なんで売れないんだろう…」と悩んでいても埒があきません。こうなる前に、ちゃんと空き家に赴くことが大切です。
実際に空き家に着いたら、以下のような点を確認しましょう。
- 権利関係の確認
- 境界の確認
- 面する道路の確認
- 法令上の制限確認
- 電気・水道・ガスの確認
- 周辺の売出物件の価格をチェック
特にやっておきたいのが、土地の境界線の確認です。
土地の境界線がわからない、または登記上の境界と実状が異なる場合は、土地家屋調査士に測量を依頼する必要があります。
測量費用は一般的には平均35万円~45万円ですが、下記のような性質の土地の測量は、官民立ち会い測量といって、国・自治体の担当者立ち合いのもと測量をおこないます。
- 土地が市有地・国有地に面している
- 印鑑証明書の取得が必要
- 土地の形が複雑
- 近隣トラブルを抱えている
この場合、測量費用は平均60万円~80万円となります。
空き家が売れ残った場合の対処法
空き家状態が長引くほど近隣にとってデメリットとなるため、早めに解消することをおすすめします。
空き家状態を解消する方法は、第三者に売るだけではありません。
ここからは、空き家状態を解消する売却以外の方法を紹介します。
誰かが住む
持ち主本人や親族など、誰かが住むことで空き家状態は解消されます。
人が住まなくなった家は不思議と劣化が急速に進むので、物件の状態を維持するためにも誰かが住むことをおすすめします。
本人が遠方に住む場合は、親族にかけあってみて入居者を募集してみましょう。
借家として貸し出す
親族が住まなくても、借家として広く入居者を募集することも可能です。
借家のニーズは年々上がっており、将来的には新居を建てる方よりも借家に住む方の割合が増えると言われています。
別の用途に活用する
空き家の広さやアクセス次第では、店舗や事業所、その他施設として再利用(土地活用)することもできます。
住まいとしてだけでなく、幅広い用途で募集をかけられるため、契約を結べる可能性は高まります。
空き家の築年数が古すぎる場合は、物件を解体したあと更地化して駐車場として貸し出したり、太陽光パネルを設置したりすることもあります。
国・自治体に寄付する
国や自治体が公共事業の一環で、不要な空き家や空き地の寄付を募っていることがあります。
募集があれば積極的に利用したいですが、利益は発生しないので悩みどころです。
また、地方自治体の財政状況が悪く、最近は募集をかける余裕がないというのが正直なところです。
ただ一方で近年では空き家問題への関心が高まっているので、今後は国主導で何らかの救済策が出る可能性が高いです。
空き家の売却は信頼できる不動産会社に相談しよう
住む人のいない空き家を第三者に売るのはハードルの高い作業に感じますが、実際には毎年多くの空き家が取引されています。
不動産会社の中にも空き家の仲介売買をおこなった経験のある業者は数多くいるので、プロに任せれば決して不可能なものではありません。
都市への人口集中や少子化の進展により今後どんどん空き家が売れにくくなることも踏まえて、早めに売却をすすめていきましょう。