不動産売却はかなり高額の取引であるにもかかわらず、その実態というのが一般的にあまり知られていません。
特にネットがなかった時代は、不動産売却は閉鎖的な環境でおこなわれていため、詐欺を働かれても気づきにくく、表に出にくいというリスクががありました。
近年は透明性の高い不動産取引の重要性が認知されるようになりましたが、依然として不動産売却に関するトラブルは存在します。
今回は、不動産売却で起こる詐欺手口などの事例と、どのように詐欺を回避すれば良いかについて解説していきます。
不動産売却で起きた代表的な詐欺やトラブルの手口・事例
不動産売却でおきる詐欺の手口は、時代によって変化してきました。
バブル期には「原野商法」という、低価値の土地をこれから値上がりすると言って高額に売りさばく手口が流行しましたし、現在では売り出していない物件を広告で出し集客をおこなう「おとり広告」などが横行しています。
今後も新しい手口が発明されるおそれもありますが、実は不動産売却時に詐欺に引っかかる人は、多くがこうした既存の手口でだまされています。
ここからは、犯罪からグレーゾーンのものまで、代表的な不動産売買に関する詐欺やトラブルについて紹介します。
事例1】地面師による詐欺(不動産所有者を騙った詐欺)
地面師は不動産取引に関する詐欺をおこなう人やグループを指すこともありますが、一般的には、土地などの所有者になりすまして取引をおこない、代金を騙し取る詐欺をおこなうグループを指します。
近年では2017年に積水ハウスが約55億円の詐欺被害にあったケースが代表的です。
近年は電子契約に移行したことにより詐欺を働くのは困難になっていますが、依然として国内外に日本の不動産を標的とする地面師グループは存在すると言われています。
事例2】手付金詐欺
地面師の手口としても一般的な手付金詐欺は、不動産売買契約が結ばれた時に買主から売主へ支払われる手付金(売却価格の最大20%ほど)を持ち逃げするという手口です。
正規の不動産会社がこのような対応をするとは考えられませんが、十分注意する必要があります。
事例3】無理やり媒介契約を結ぼうとする
不動産会社が、強引な営業で無理やり媒介契約を結ぼうとするケースもあります。
一般的な媒介契約の方法である専任専属媒介・専属媒介は、1社と契約を結び、成約時にその1社へ仲介手数料を支払うというものになります。
つまり、媒介契約を結べなければ仲介手数料という利益は得られず、逆に好条件の不動産であれば、そこまで営業に力を入れなくても成約が見込めるため、仲介事業はまず契約をとれるかが重要になります。
何度も連絡が来る、一度来店相談をしたらなかなか帰してくれない、、、といった場合は、しかるべき機関に相談をするようにしましょう。
事例4】囲い込みをされる
仲介売却で警戒したいケースの1つが、囲い込みです。
囲い込みとは、売主と買主の仲介業者がどちらも同じ会社(両手仲介)になるケースを意図的に作り出そうと、外部への宣伝を制限した上で価格を下げて買主に購入しやすくするといった働きをおこなうことです。
仲介手数料は売主・買主ともに売買価格に対して下記の計算式で算出されます。(法定上限額)
取引額(不動産の売買価格) | 仲介手数料(法定の上限額) |
---|---|
200万円以下 | (売買価格(税抜き)× 5.0%) + 消費税(10%) |
200万円超400万円以下 | (売却額(税抜き)× 4.0%+2万円) + 消費税(10%) |
400万円超 | (売却額(税抜き)× 3.0% + 6万円) + 消費税(10%) |
例えば、3,000万円の不動産の仲介手数料(片手)は96万円(税抜)となりますが、成約価格が2,500万円だとしても、両手仲介の場合の不動産会社の利益は75万円(税抜)×2=150万円(税抜)なので、価格が下がったとしても片手仲介より利益が大きくなってしまいます。
こちらのケースでは、不動産会社からすれば利益が増えるメリットがありますが、売主からするとデメリットしかありません。
注意したいのは、両手仲介は必ずしも悪いことではありません。例えば東急リバブルや住友不動産販売といった大手は30%~60%が両手仲介と言われますが、こうした店舗数・顧客数が多く知名度が高い大手は図らずも両手仲介の割合が増えます。
囲い込みのリスクを完全になくすなら、片手仲介100%のSRE REALTY(旧SRE不動産)などと契約することをおすすめします。
事例5】査定額や条件を吊り上げて提示される
媒介契約を結ぶ前に、売主は複数の不動産会社の提示条件を比較した上で、良さそうな会社と契約するのが一般的です。
この場合は査定額や売却プラン、検査・保証サポートなどを比較して選びますが、特に多いのが、査定額を比較して最も高額な会社と契約するケースです。
基本的に査定額は各社が仲介売却をした時の予想価格なので、査定額が高額な不動産会社と契約を結ぶことで高く売れる可能性は上がります。
ただし、査定はあくまで見積もりなので、実際の売却価格と異なっている可能性もあります。
悪質な業者の中には、物件調査をキチンとせず、高額な査定価格を提示して契約をとろうとする不動産会社も存在します。
事例6】仲介売買以外の関連会社と契約させようとする
株式会社グローベルスが実際に不動産売却をした134名を対象に実施した独自アンケートによると「住み替え」「相続物件の処分」「使い道を失う」「ローン返済に悩む」という理由で売却する傾向が強いとわかりました。
より良い住まいに住み替えるため | 40名(29.9%) |
---|---|
相続物件を処分するため | 37名(27.6%) |
物件の使い道が無くなったため | 17名(12.7%) |
ローンの返済が困難なため | 12名(9.0%) |
資金調達のため | 10名(7.5%) |
転勤のため | 6名(4.5%) |
離婚したため | 4名(3.0%) |
通勤・通学のため | 4名(3.0%) |
家族と同居するため | 2名(1.5%) |
結婚したため | 2名(1.5%) |
仕事やプライベートでのライフスタイルが変化したため、住み替えが必要になる人や、両親等が亡くなったことで物件を相続し、そのまま処分するために売却を考える人が多いとわかります。
不動産を仲介売却する最も多い理由は住み替えですが、住み替えでは仲介業者以外にも、引っ越し先の新居を建てるハウスメーカーや土地家屋調査士、ローンを借りる銀行、司法書士など、様々な会社や事業者と契約が必要になります。
仲介業者の中には、こうした事業者を関連会社などに半ば強引に斡旋しようとするところも少なくありません。
事例7】小切手による代金支払い
不動産の売却代金を小切手で受け取ると、現金化の際に小切手が無効であることが判明し、結局お金を受け取れないという詐欺もあります。
詐欺師は現金化の前に姿を消してしまうことが多く、被害者は手続きを進める前に買主の信用性を確認し、可能であれば直接の現金取引を行うことが望ましいです。
小切手での取引に必ずしも全てリスクがある訳ではないですが、もし小切手を受け取る場合はすぐに現金化し、問題がないことを確認する必要があります。
事例8】「売れない」と不安を煽る・馬鹿にした対応をとる
売主の売却価格の希望に対して「こんな状態の悪い不動産がそんな価格で売れる訳がない」「価格がつくだけありがたいと思うべき」といった発言をされるケースも少なくありません。
中には「この状態の物件なら売れる訳がない。我々はプロだから分かる」というように、価格根拠を売主に分かるよう説明せず丸めこもうとするケースもあります。
前提として、仲介手数料というお金を払ってサービスを受けるのに、このような不快な対応をされるのであれば契約する必要はありません。
また、不動産を相場より高く売るためには仲介業者の営業力が頼りです。営業はある不動産を、より魅力的に見せたり、より高値で買ってくれる人を探してきたりすることでもあり、「状態が悪いから高く売れる訳がない」というような、失礼な対応をするところはそもそも期待できません。
事例9】仲介手数料に含まれるべき経費の支払いを求めてくる
仲介業者がおこなう通常の仲介業務に対する報酬やコストの支払いは、仲介手数料にすべて含まれます。
- 自社の顧客に不動産を紹介してくれた報酬
- 広告を掲載することにより購入希望者を探してくれた報酬
- 不動産を売るための営業活動の報酬(広告活動、ポスティングなども含む)
- 営業活動にかかる諸経費の補填(広告作成費や交通費なども含む)
- 販売価格の計算に対する費用
- 業者の売り上げとなる(不動産仲介業の質が保たれる)
つまり、仲介手数料以外に、営業費用や広告費用などの名目で不動産会社が支払いを求めるのは原則NGです。
例えばテレビCMなどの大規模な広告活動をおこなった、売却時に家のリフォームや解体が必要になった、隣地との境界が曖昧なので測量をおこなったといった、通常の仲介業務に含まない業務をおこなった場合は、仲介手数料とは別に費用の支払いを請求できます。
しかし、こうした業務が発生する場合は事前に売主に仲介手数料に含まれない旨なども伝えた上で許可を得る必要があり、売主がこれを知らなかった場合は不動産会社に費用を支払う必要はありません。
事例10】不動産査定書の記載が不明確
不動産会社に査定を依頼すると、上記のような形で査定結果が提出されます。
専門用語が使われている部分もありますが、基本的にはこの不動産査定書を確認すれば、初心者でもどのような流れで価格が設定されているか、価格の根拠がどこにあるかが分かるようになっています。
良くあるのが、各項目の評価に納得できないといったケースです。こうした場合は、不動産会社へ遠慮なく質問をするようにしましょう。
事例11】依頼者に負担を強いるスケジュールになっている
悪徳業者に限ったことではないですが、トラブルで多いのが、不動産会社からの連絡や対面相談の依頼が非常に多く、売主にとって負担が大きいケースです。
必要な連絡であるケースも勿論ありますが、メールや電話で済む内容なのに来店相談を求めてきたりするケースも多々あります。
不動産業界はアナログな面もまだまだ残っており、対面のほうがむしろ喜ばれると思われている可能性もあります。気になる方は一度相談してみましょう。
不動産売却で詐欺・トラブルに遭わないための対処法
【対処法1】レインズの登録内容を確認させてもらう
囲い込みにも様々な方法がありますが、代表的な手口はレインズ(全国の不動産会社が利用できる情報データベース)に不動産を登録せず広告掲載を自社のホームページなどに限定することで、他の業者に物件を紹介させないようにしながら、自社で仲介している買い手にだけ物件購入をすすめるというものです。
売却期間が延び、価格も低くなりがちなので放っておいても売り手に得はないので、他の業者に依頼するなどして、レインズに物件が登録されているかを確認しましょう。
レインズは不動産会社が扱うデータベースで、一般の方はログインができません。確認いただく場合は不動産会社に依頼をし、拒否される場合などは他の不動産会社や第三者機関に相談をしてみましょう。
【対処法2】売却価格の相場を査定依頼前に調査しておく
不動産会社が提示した査定価格が適切な価格がどうか分からないまま、営業マンの圧に押されて契約を結んでしまうケースも少なくありません。
こうしたトラブルを回避するために、売却を検討している方は事前に価格の相場を調べておくことをおすすめします。
相場価格を調べる方法としては、SUUMOなどのプラットフォームに掲載されている新規の売り出し物件情報を確認する方法や、「不動産情報ライブラリ(旧:土地総合情報システム)」のようなデータベースで過去の取引実績を確認する方法があります。
【対処法3】契約する不動産会社は比較して決める
不動産売却を想定しているタイミングで、ある不動産会社から「すぐに査定が出来ます」といったチラシが届いていたりするケースもあります。
こうしたチラシを見て査定を依頼することもありますが、どの不動産会社と契約するか決める際は、必ず複数社を比較して決めるようにしましょう。
前述の通り、査定額は不動産会社ごとに異なるため、どこが良いかは比較しないと分かりません。
1社のみに査定を依頼して契約をするのは、特に自分から不動産会社を探していない場合はリスクがあります。
【対処法4】売主のスケジュール・リソースに余裕を持つ
売却までに時間が無かったり、多忙で売却に関する手続きや不動産会社との対話などでじっくり時間が取れない場合は、悪徳業者に引っかかったり、安く買い叩かれたりするリスクが高くなります。
詐欺被害を回避するだけでなく、不動産売却を成功させるためにも、不動産売却にかかるスケジュールには余裕を持っておくことをおすすめします。
詐欺・トラブルがあった時に相談できる機関の連絡先
自分が仲介詐欺にあっているかもしれない、または既に詐欺にあった方の中で、他の不動産会社に相談しようとする方がいます。
もちろん、相手が優良業者なら何も問題はないですが、彼らも利益を追求する必要があるので、自社と契約を結ばせようとする可能性もあります。
個人的には、他社に相談する前に以下のような公的機関に相談をするのがおすすめです。
機関名 | 相談窓口の連絡先 | 受付時間 |
---|---|---|
公共財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター) | 03-5843-2081 | 9:30〜16:00(土日祝、年末年始除く) |
宅地建物取引業協会 | 各都道府県ごとに異なる | – |
公益社団法人 全日本不動産協会 | 03-5338-0370 | 13:00〜16:00(土日祝、年末年始除く) |
消費生活センター・国民生活センター | 0570-064-370 | 各都道府県ごとに異なる |
法テラス(日本司法支援センター) | 0570-078374 | 【平日】9:00〜21:00 【土曜】9:00〜17:00 |
公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター(住まいるダイヤル) | 0570-016-100 | 10:00~17:00(平日のみ) |
不動産売却の詐欺に遭わないためにも業者選びは慎重に進めていく
不動産売却を行う際には、業者選びが最も重要なプロセスの一つと言えます。
市場には信頼できる業者も多い一方で、詐欺を行う悪質な業者も存在しています。
そのため、売却先の不動産業者を選ぶ際には、じっくりと時間をかけて検討し、その業者の信頼性や評判を確認することが重要です。
インターネットでの口コミや評価をチェックし、実際にその業者とコンタクトをとる前に十分な情報収集を行いましょう。
また、契約を急ぐ業者や不透明な手続きを強要する業者には注意が必要です。