日本の不動産の購入を検討している外国人は少なくありません。
そのため、不動産売却で外国人をターゲットに入れることで、より売却しやすくなる場合があります。
しかし、外国籍の方とのやりとりを不安に感じる方も少なくないのではないでしょうか。
本記事では外国人に不動産を売る流れやメリット・注意点を解説します。
売却の流れは、売却先が外国人だからという理由で大きな差はありません。
しかし、細かい箇所で異なる内容があるため、把握しておきましょう。
外国人に不動産を売るケースが増えている理由
近年、日本の不動産市場は外国人からの需要が高まっています。
外国人に不動産を売るケースが増えており、その理由として主に以下の3つがあげられます。
- 海外の投資家からの需要が高い
- 外国人に対する不動産購入の制限がない
- 日本国内の外国人労働者が増加している
それぞれ解説します。
海外の投資家からの需要が高い
海外の投資家からの需要が高いため、外国人に不動産を売るケースが増えています。
2022年以降、円安が続いているため、外貨建てで見ると日本の不動産は格安に感じられます。
三菱UFJ銀行の外国為替相場チャート表を参考に、2020年12月〜2024年12月の終値をまとめると上記のとおりとなりました。
海外の投資家にとって、日本の不動産を購入する絶好のタイミングといえます。
特に都市部や民泊ニーズの高いエリアでは、家賃収入を狙った投資が人気です。
外国人に対する不動産購入の制限がない
日本の不動産は、原則として外国人に対する購入制限がありません。
これは国際的に見て珍しく、日本の不動産市場の大きな特徴ともいえます。
国籍や在留資格、居住、個人、法人などにかかわらず購入可能です。
ただし、不動産を購入したからといって、ビザや永住権が与えられるわけではありませんし、銀行によっては住宅ローンのハードルが高い場合もあるため注意しなければなりません。
日本国内の外国人労働者が増加している
労働力不足を補うために、日本国内の外国人労働者が増加しています。
厚生労働省が発表した『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)』によると、外国人労働者数は2,302,587人となっており、前年比はプラス253,912人で過去最多の数値となっています。
不動産市場でも同様に外国人需要が予想されるため、外国人労働者向けの賃貸物件の増加も考えられます。
労働者の側面から見ても、都市部や観光地での需要が増えており、今後もこの傾向が続くと考えられます。
外国人に不動産を売るメリット
日本人に不動産を売却できるのであれば、わざわざ外国人をターゲットとして売却する必要はないかもしれません。
しかし、外国人に不動産を売るメリットとして以下の3つがあげられます。
- 売却確率が上がる
- 高く売れる可能性がある
- 現金一括で購入してくれる場合が多い
外国人への不動産売却も視野に入れながら確認していただければと思います。
売却確率が上がる
売却先の対象が日本人に外国人もプラスされることで、売却市場が広がります。
- 外国人のバイヤーにもアプローチすることで競争率が高くなる
- 物件の立地や特徴によって日本人が購入してくれない不動産でも、外国人が価値を感じてくれることがある
売却先の間口を広くすることは、売却を成功させるきっかけにつながります。
高く売れる可能性がある
円安の影響で日本の不動産が実質的に安く見えるため、日本人にとっては多少高価な物件でも購入してくれる場合があります。
日本の不動産は海外の富裕層にもニーズがあるため、高く売却できる確率が高くなります。
また、築年数が経過した古い民家であっても、外国人であれば「日本らしい」「和の雰囲気がある」と受け取ってくれるかもしれません。
現金一括で購入してくれる場合が多い
外国人に不動産を売却する場合、現金一括で購入してもらえる可能性が高くなります。
なぜなら、日本の住宅ローン審査通過は、外国人にとって容易ではないためです。
外国人の投資は資金力があるため、不動産を現金で購入できる資金があり、最初から現金での購入を考えている外国人が多いです。
現金一括で購入してもらえることで、決済までの期間が短くなります。
住宅ローンの審査に落ちて契約が頓挫することもなくなるため、契約の成功率も高まります。
外国人に不動産を売る流れ
日本人に対して不動産を売る場合と外国人に不動産を売る場合では、細かな違いはあるものの大まかな流れは同様です。
ただし、不動産売却の流れ自体は複雑で、多くのプロセスを踏むことになります。
- 売却活動の準備
- 外国人に売却可能な仲介業者を選定する
- 媒介契約を締結する
- 売却活動
- 買付証明書を確認する
- 不動産売買契約を締結する
- 引き渡しまでの準備
- 引き渡し・決済
- 確定申告
一つずつ確認していきましょう。
売却活動の準備
準備段階では以下を行いましょう。
- 必要書類の確認
- 希望価格の設定
- スケジュールの確認
- 英語資料の作成
仲介業者を探す前にこれらに取り組んでおくことで、この後の作業がスムーズになります。
また、英語資料の作成は必須ではありませんが、作成することで外国人に売却しやすくなります。
- 外国人向けの資料を自作する
- 自分の負担を少なくできるように、外国人の対応の経験が豊富な仲介業者を選ぶ
- 外国人への売却も視野に入れるが、まずは日本人をターゲットにする
準備段階でどのように不動産売却を進めるか、しっかり検討してきましょう。
外国人に売却可能な仲介業者を選定する
売却活動の準備が完了したら、外国人に売却可能な仲介業者を選定します。
仲介業者を選定する際のポイントは以下のとおりです。
- 外国人の対応実績
- 英語や他言語対応可能なスタッフの有無
- 外国人特有の税務・法務の理解
- コミュニケーション能力や文化ギャップへの理解
- 仲介手数料や条件
これらを事前に確認しておけば、仲介業者選びで失敗することは少なくなるでしょう。
媒介契約を締結する
仲介業者を選択するタイミングで、媒介契約をどのようにするか検討します。
一般媒介契約・専任媒介契約・専属専任媒介契約の3種類があり、利用条件や特徴に違いがあります。
どのような戦略を立てて売却するかを考えて、媒介契約を選択しましょう。
売却活動
媒介契約を締結した仲介業者が売却活動を行います。
物件の情報を提供することで、仲介業者が営業をかけやすくなります。
- ポータルサイトへの掲載
- チラシ配布
- 既存客への紹介
- 内覧会の実施
- SNSやWebでの広告
仲介業者や媒介契約の種類によってサポート力が異なるため、どの程度サポートしてもらえるか事前にチェックすることをおすすめします。
買付証明書を確認する
売買契約を行う前に買付証明書を確認します。
買付証明書は正式な契約書ではありません。
買主は売主に対して以下の内容を記載し、購入したい旨を伝えます。
- 買主の個人情報
- 買いたい物件の所在地
- 希望購入価格
- 契約や引き渡しの希望日
- 手付金・残金の支払い方法
売主は買付証明書をもとに売却するか検討します。
不動産売買契約を締結する
買付証明書の内容を確認し、同意したら不動産売買契約を行います。
- 宅地建物取引士による重要事項の説明
- 売買契約書の読み合わせ・内容確認
- 売買契約書への署名と捺印
- 買主から売主に売買価格の5〜10%の手付金を支払う
外国人への売却の場合、通訳や翻訳などの対応が必要になります。
売買契約を締結すると法的効力を発揮されるため、これ以降に一方的な解約はできません。
- 買主が契約を解除したい場合…手付金を放棄することで解除可能
- 売主が契約を解除したい場合…手付金の倍額を返金することで解除可能
引き渡しまでの準備
売買契約を締結してからも、引き渡しまでに作業が必要です。
スムーズに引き渡しできるように、当事者はそれぞれ以下の準備をしましょう。
- 抵当権の抹消準備
- 引き渡し書類の準備
- 引越し・留置物の撤去
- ハウスクリーニング
- 鍵の準備
- 住宅ローンの手続き
- 決済金の用意
- 登記に必要な書類の準備(パスポート、在留カードなど)
引き渡し・決済
引き渡し・決済では、残りの支払いをすべて済ませて、買主に鍵を渡すまでの作業を行います。
具体的な手順は上記のとおりです。
手続きは1〜2時間程度で、銀行や司法書士事務所の一室で行われます。
万が一の決済トラブルがあった際に当日対応しやすいように、午前中から行うことが多いです。
確定申告
不動産の売却によって譲渡所得が発生する場合、売主は翌年の2月16日~3月15日に確定申告を行う必要があります。
期間内に申告しなければ遅延金の支払いも必要になるため、早めに確定申告の準備を始めておきましょう。
控除を使えば税金の支払いが免除される場合もありますが、控除を受けるためにも確定申告は必須です。
外国人に不動産を売る際にかかる税金
外国人に不動産を売る際に以下の3つの税金がかかります。
これらは売主や買主の国籍に関係なく、日本にある不動産を売却する際にかかってくる税金のため、頭に入れておきましょう。
- 印紙税
- 登録免許税
- 譲渡所得税
それぞれ解説します。
印紙税
売買契約書を作成する際に印紙が必要になります。
売買金額によって印紙税額が変動します。
- 1,000万円超~5,000万円以下での売却…1万円
- 5,000万円超~1億円以下…3万円
- 1億円超~5億円以下…6万円
登録免許税
不動産を売却する際に、登記名義を変更することで登録免許税がかかります。
本来、名義を変更する買主側に課せられる税金のため、売主が支払うことはありません。
しかし、例外として契約時に売主が登録免許税を負担すると合意した場合など、稀なケースもあるため注意が必要です。
譲渡所得税
譲渡所得税は、外国人への不動産売却でメインとなる税金です。
不動産を売り、譲渡所得が発生した場合に課税されます。
- 譲渡所得 = 売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)
- 譲渡所得税 = 課税譲渡所得 × 税率
譲渡所得税にかかる税率は、不動産の所有期間によって変動するため、以下を参考にしてください。
多くの譲渡所得税が発生した場合でも、条件を満たせば3,000万円の特別控除などが利用でき、譲渡所得税を大幅に減額できます。
居住用の不動産を売却する場合は、3,000万円の特別控除の利用を検討してみましょう。
外国人に不動産を売る際に必要な書類
外国人に不動産を売る際に必要な書類をまとめました。
一般的に宅地建物取引業法や不動産登記申請手続に基づいて不動産売却が行われるため、購入側の国籍によらず以下の書類が必要となります。
- 本人確認書類
- 登記済証または登記識別情報
- 印鑑証明書
- 固定資産税納付書または固定資産税評価証明書
- 住民票
- 司法書士への委任状
それぞれ解説します。
本人確認書類
売主が不動産の正当な所有者であることを確認するために本人確認書類は必須です。
- 運転免許証
- パスポート
- マイナンバーカード
- 在留カード(売主が外国人の場合)
登記済証または登記識別情報
不動産の所有者である正当性が確認できなければ、司法書士が登記手続きを行えません。
紛失した場合は別途手続きが必要になります。
印鑑証明書
売主が所有権移転登記を行う際に、実印と印鑑証明書が必要となります。
不動産売却で用いる印鑑証明は、発行から3ヶ月以内でなければなりません。
また、契約書の信頼性を担保する目的でも利用されます。
固定資産税納付書または固定資産税評価証明書
- 固定資産税納付書…固定資産税を納税するために必要な書類で、固定資産を所有している人に毎年送られる
- 固定資産税評価証明書…固定資産税を計算する基準となる評価額が記載された書類
これらは不動産売買において、法的に必須な書類ではありません。
しかし、固定資産税の正確な金額を確認するために、実務上ほぼ必須といえる書類です。
紛失した場合は役所での再発行が可能です。
住民票
不動産を売る際に住民票が必要になるケースがあります。
登記簿に記載されている住所と現在の住所が異なる場合、所有権移転登記を行えません。
そのため、司法書士に住所変更登記も依頼することになりますが、その際に住民票が必要となります。
住所の変更があれば必須の書類となりますが、住所変更がなければ必要ありません。
司法書士への委任状
登記申請は個人で行えないわけではありませんが、司法書士に依頼するのが一般的です。
その際に委任状が必要となります。
司法書士が登記に適して委任状のフォーマットを用意している場合は、そちらを活用しましょう。
- 所有権移転登記、住所変更登記などの目的
- 物件の住所
- 代理人の氏名
- 司法書士名
買主の外国人が用意すべき書類
買主の外国人が用意すべき書類を4つ紹介します。
- 本人確認書類
- 在留カード
- 住民票または宣誓供述書
- 印鑑証明書またはサイン証明書
外国人への売却を検討されている場合、相手の住まいや在留資格によって書類が変わることを頭に入れておきましょう。
本人確認書類
本人確認書類は必須となります。
主に使われる本人確認書類はパスポートです。
日本の住民票を持っている方であれば運転免許証も利用できます。
買主側の本人確認書類も、売買契約の信頼性向上や登記申請に必要です。
在留カード
買主が外国人でも日本に在住しているのであれば、在留カードを身分証明書として利用できます。
住民票または宣誓供述書
買主の外国人は、住民票もしくは宣誓供述書が必要になります。
- 住民票…日本に住所がある場合に住所を確認するための書類として利用できる
- 宣誓供述書…自分自身の情報を証明するための書類
日本に住所がない方が不動産を購入する場合は、住民票の代わりとして大使館・領事館などで認証を受けなければなりません。
印鑑証明書またはサイン証明書
登記手続きの本人確認に印鑑証明書、またはサイン証明書が必要になります。
日本に住んでおらず、印鑑証明書を保有していない場合はサイン証明書を利用します。
日本では印鑑を使用することが多いですが、サイン文化のある国では同じ役割としてサイン証明書が使われます。
外国人に不動産を売る際の注意点
外国人に不動産を売却することによるリスクは少なからず存在します。
日本人に売却するのと同じ考え方で外国人に売ると、スムーズに売却を進められない可能性があるため、以下の4点に注意しましょう。
- 契約書や重要事項説明書の言語対応
- 住宅ローンが組めず売買不成立になる可能性がある
- 物件の引き渡しまでに時間がかかる
- 原則として日本円で取引する
それぞれ解説していきます。
契約書や重要事項説明書の言語対応
外国人への不動産売買でもっとも注意すべきなのが言語の壁です。
契約書や重要事項説明書は日本語で作成されているため、外国人への売却を検討するのであれば、翻訳したものを用意するのが望ましいです。
通訳を作成するのは義務ではありませんが、契約内容を把握できておらず、契約不履行になる恐れがあるため可能な限り作成しましょう。
外国人への売却に対応している仲介業者を利用するのも、言語対応が容易になる手段の一つです。
住宅ローンが組めず売買不成立になる可能性がある
住宅ローンが組めず、売買不成立になるケースは日本人に売却するよりも発生しやすいです。
外国人が住宅ローン審査を通すのは、日本人が行うよりも難易度が高いです。
- 在留資格の種類…永住者・定住者・配偶者ビザなど
- 在日日数…3年以上必要な場合が多い
- 職業や年収…安定した収入が見込めなければ難しい
- 銀行の方針…外国人への貸出をしていない場合もある
住宅ローンの審査基準は銀行によって異なるため、在留資格や職業をそこまで重視されない場合もあります。
しかし、そもそも外国人への貸出をしていない銀行も少なくありません。
ほかにも日本語能力や、日本人の保証人が必要になるケースもあるため、売買不成立になる可能性は頭に入れておかなければなりません。
物件の引き渡しまでに時間がかかる
外国人に不動産を売却する場合、引き渡しが完了するまで時間がかかりやすいです。
引き渡しまでの時間がかかる要因は複数あげられます。
- 翻訳作業や契約内容の理解
- 海外送金の遅延
- 住宅ローン審査
- 必要書類の作成や手配
売却する外国人が居住者か、非居住者かによっても時間のかかり具合が変わってきます。
物件の引き渡しまで、一般的には1〜3ヶ月程度の時間がかかりますが、1ヶ月程度日数がプラスされると想定しておくとよいでしょう。
原則として日本円で取引する
そもそも日本円での取引となる場合がほとんどですが、当事者が同意すれば外貨での支払いも可能になります。
しかし、それを認めてしまうと為替の変動や為替手数料の発生によって、利益が減少する可能性があります。
また、通貨について明記していなければ、後にトラブルとなる恐れがあるため、通貨について売買契約書に記載しておきましょう。
外国人相手に行う不動産売却を成功させる方法
外国人への不動産売却は、言語や文化の違いから日本人への不動産売却よりも難易度が高くなります。
以下の方法を理解してトラブルを回避しましょう。
- 外国人対応に手慣れている不動産会社を選ぶ
- 支払通貨は日本円であることを伝える
- 取引内容を書面に残す
- 期日を決めて取引を進めていく
それぞれ解説します。
外国人対応に手慣れている不動産会社を選ぶ
外国人相手の不動産取引は、文化や言語、法律の違いが影響するため、専門的な知識と経験が求められます。
そのため、外国人への対応経験が豊富な不動産会社を選択することが重要です。
- 外国人の購入傾向や要望を理解している
- 交渉のアドバイスやサポートが期待できる
- 通訳や翻訳サービスを提供している
支払通貨は日本円であることを伝える
購入希望者が外国人の場合、自国の通貨での支払いを希望することが考えられます。
しかし、為替レートの変動リスクや換金時の手数料などの問題が生じるため、支払通貨は日本円であることを明確に伝えておく必要があります。
支払通貨について契約書に明記することで、後のトラブルを防げます。
取引内容を書面に残す
取引内容や約束事を正確に共有することは、トラブル防止のために極めて重要です。
特に外国人との取引では、文化や言語の違いから誤解が生じるリスクが高まります。
したがって、契約内容、取引の流れ、価格や支払い条件など、取引に関する全ての内容を書面に残し、双方の合意を得ることが重要です。
これにより、「言った・言わない」問題を未然に防げます。
期日を決めて取引を進めていく
期日管理は、不動産取引において非常に重要な要素となります。
特に外国人との取引では、文化や慣習の違いから期日に対する感覚が異なることが考えられます。
契約書に期日を明記し、期日を過ぎた場合のペナルティや対応を決めておくことで、トラブルを避けることができます。
不動産を売る際は外国人への売却も視野に入れよう
不動産は日本人に売却するよりも、外国人に売る方が高値で買い取ってもらえる可能性があります。
- 少しでも高く売りたい
- 買主が見つかりにくい古民家を売却したい
売却の準備や契約の手間がかかるかもしれませんが、上記のような考えを持っている方は、外国人への売却を視野に入れてみるのがおすすめです。
契約内容やスケジュールでトラブルが発生しやすくなることもあるため、外国人に売却する流れや注意点を理解した上で売却活動を進めましょう。
![GRO-BELラボ[株式会社グローベルス]](http://gro-bels.co.jp/labo/wp-content/uploads/2024/08/ラボ ロゴ-02-1.jpg)







