不動産売却において、買主に所有権を正式に移すためには所有権移転登記が必要です。
これは、法務局に対して不動産の権利移転を正式に記録する手続きであり、売却が法的に完了したことを公的に証明するものです。
登記が完了していなければ、いくら売買契約が成立していても、第三者から見たときに「誰のものか」が明確にならず、買主にとって大きなリスクとなります。
反対に、登記を確実におこなえば、買主の権利が保護され、売主としても取引のトラブルを防ぐことができます。
本記事では、不動産売却時における所有権移転登記の基本的な仕組みから、手続きの流れ、必要書類や費用、トラブル防止のための実務上の注意点までを網羅的に解説します。
【免許登録】
宅地建物取引業免許:国土交通大臣(4)第7845号
一級建築士事務所登録:東京都知事 第62093号(東京本社)
特定建設業許可:東京都知事 (特-2) 第135078号(東京本社)
不動産特定共同事業許可:東京都知事 第134号(東京本社)
賃貸住宅管理業登録:国土交通大臣(1)第1722号(東京本社)
所有権移転登記とは?
所有権移転登記とは、不動産の売却や相続などで所有者が変わった際に、法務局(登記所)に対してその変更を正式に記録する手続きのことです。

不動産の権利関係は登記簿によって管理されています。たとえ実際に売買契約が交わされ、代金が支払われても、登記がなければ法的には旧所有者のまま扱われます。
そのため、不動産を売却する際には、必ず所有権移転登記をおこなって買主に名義を移さなければなりません。
なお、過去には所有者不明土地や地面師による詐欺事件が社会問題となったこともあり、登記の重要性は年々高まっています。
所有権移転登記を適切に行うことは、買主の権利を守るだけでなく、売主にとってもトラブル回避や信頼性確保の面で極めて重要なステップです。
不動産取引時に所有権移転登記が必要なケース
不動産の売買による所有権移転
最も一般的なケースは、不動産の売却(売買)です。売買契約が成立し、代金の支払いが完了したタイミングで、買主へ所有権を移転するための登記をおこないます。
売却における登記は「引渡しと同時に完了させる」のが実務上の慣例です。
登記完了をもって正式な所有権が移るため、引渡し日と登記日がずれるとトラブルの原因になることもあります。
仲介業者や司法書士がスケジュールを調整し、登記申請・立ち合い・費用支払いなどを同日に行うのが一般的です。
贈与による所有権の移転
不動産の無償譲渡(贈与)においても、所有権を受け取る側が法務局で登記をおこなう必要があります。
たとえば、親から子へ住宅を生前贈与する場合、所有権移転登記を済ませてはじめて受贈者が正式な所有者と認められます。
贈与の登記では、契約書の作成や贈与税の申告・納付もセットで行われるため、売買以上に専門的な知識が必要です。
金銭の授受がないため、後に「隠れた売買ではないか」と誤解されないよう、書類の整備も重要です。
相続による所有権の移転
不動産を相続した場合にも、名義を亡くなった方(被相続人)から相続人へ変更する登記が必要です。
これを相続登記と呼び、2024年からは登記の義務化(期限:取得から3年以内)が始まりました。

相続による登記は、遺言書や遺産分割協議書、戸籍一式の提出など、非常に多くの書類が必要となるため、早めに司法書士や専門家に相談しておくことが推奨されます。
相続放棄や共有状態の整理が登記に影響することもあります。
離婚による財産分与としての移転
離婚時の財産分与で不動産を一方に譲渡する場合も、所有権移転登記が必要です。
この場合、当事者間での財産分与協議書を根拠として、移転の手続きがなされます。
注意点として、離婚時の登記は贈与や売買とは異なり財産分与として扱われます。
協議が整っていないと登記ができないため、家庭裁判所の調停調書などが必要になるケースもあります。
不動産売却時の所有権移転登記の流れ
不動産売却にともなう所有権移転登記は、法律知識や実務的な手続きが多いため、多くの場合は司法書士に依頼して進めます。
一方で、準備不足や連携ミスがあると登記完了が遅れ、売買の最終成立に支障をきたすおそれもあります。
ここでは、不動産売却における所有権移転登記の基本的な流れをステップ形式で解説します。
- 【Step1】必要書類・費用を事前に準備する
- 【Step2】司法書士に依頼する
- 【Step3】司法書士との事前相談・日程調整
- 【Step4】登記の実施と費用の精算
【Step1】必要書類・費用を事前に準備する
所有権移転登記では、売主・買主それぞれに必要な書類があり、印鑑証明書や固定資産評価証明書など、取得に数日かかるものも含まれます。
また、登録免許税や司法書士への報酬も発生するため、物件の売却手続きと並行して早めに準備を進めることが重要です。
契約直前になってから慌てて用意すると、手続きが遅れて引渡し日に登記が間に合わない事態も起こり得ます。
【Step2】司法書士に依頼する
登記手続きをスムーズに行うには、司法書士への依頼がほぼ必須です。不動産会社が紹介してくれる司法書士にそのまま任せるケースが多い一方、費用を抑えたい場合は複数事務所を比較検討するのも有効です。
ただし、不動産取引に精通した司法書士を選ぶことが重要で、報酬の安さだけで判断するのは避けた方が安全です。
【Step3】司法書士との事前相談・日程調整
司法書士が決まったら、登記申請日や引渡し日などのスケジュールをすり合わせ、必要書類の確認や押印方法なども事前に打ち合わせます。
短時間の初回相談であれば無料対応の司法書士も多いですが、相談が長引くと別途費用が発生することもあるため、事前に料金体系を確認しておくと安心です。
【Step4】登記の実施と費用の精算
売買契約の完了後、司法書士が法務局に所有権移転登記の申請を行い、登記が完了するまでの間、買主の権利を保護するために事前通知制度や登記済権利証のチェックなども行われます。
通常は引渡し当日に登記申請と報酬の支払いを同時に行うため、取引全体の段取りは司法書士・不動産会社と十分に調整しておくことが重要です。
所有権移転登記にかかる費用
不動産売却にともなう所有権移転登記では、法務局に納める税金のほか、司法書士への報酬や各種証明書の取得費用など、いくつかの費用が発生します。
ここでは、所有権移転登記に関わる主な費用とその内訳を、ケースごとにわかりやすく整理して紹介します。
登録免許税
登録免許税は、登記を法務局に申請する際に必要となる税金で、不動産の固定資産税評価額をもとに税額が決まります。
売買による登記と、相続・贈与などによる登記では税率が異なるため、以下の表を参考にしてください。
- 売買の場合:固定資産税評価額 × 2%
※軽減税率(1.5%)は2023年3月末で終了 - 相続・法人の合併・共有分割:固定資産税評価額 × 0.4%
- 贈与・遺贈・競売など:固定資産税評価額 × 2%
建物のみの所有権移転登記では、一律0.4%の税率が適用されます。
各種証明書・書類の取得費用
登記申請には、住民票・印鑑証明書・評価証明書などの書類が必要です。これらは市区町村役場や法務局などで取得できますが、1通数百円程度の費用が発生します。
以下は主な取得書類の一例と目安費用です。
- 印鑑証明書:300円前後
- 住民票:300円前後
- 固定資産税評価証明書:400円前後
- 相続時の戸籍謄本・除籍謄本など:1,000円~2,000円程度
司法書士への報酬
所有権移転登記を司法書士に依頼する場合、報酬が別途かかります。報酬額は事務所ごとに異なりますが、一般的な売買登記であれば2万円~4万円程度が相場です。
ただし、相続登記や贈与登記の場合は、必要書類の数や調査業務が増えるため、5万円~10万円以上になることもあります。
見積もりを複数取って比較したい場合は、報酬体系が明確に提示されている司法書士事務所を選ぶと安心です。
所有権移転登記の必要書類
所有権移転登記をおこなうには、売主・買主それぞれが登記申請に必要な書類を揃える必要があります。
また、相続や贈与、財産分与といったケースでは、契約内容や関係性を証明する書類が追加で求められるため、取引内容に応じた準備が欠かせません。
以下に、主なケース別に必要な書類とその取得費用の目安を一覧で整理しました。
不動産売買時|売主が用意する書類
書類名 | 取得費用 |
---|---|
不動産売買契約書 | -(契約時に作成) |
登記識別情報通知書(または登記済証) | -(登記完了時に発行済) |
印鑑証明書 | 約300円 |
資格証明書(法人の場合) | 約500円 |
固定資産税評価証明書 | 約400円 |
不動産売買時|買主が用意する書類
書類名 | 取得費用 |
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住民票 | 約300円 |
資格証明書(法人の場合) | 約500円 |
相続登記|相続人が用意する書類
書類名 | 取得費用 |
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登記原因証明情報(遺産分割協議書や遺言書など) | -(作成内容による) |
相続人の住民票 | 1人あたり約300円 |
戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍など | 数千円(必要通数により変動) |
固定資産税評価証明書 | 約400円 |
相続登記では、被相続人の出生から死亡までの戸籍をすべて取得する必要があり、取得先が複数自治体にまたがることもあります。
財産分与(離婚)による移転登記|譲渡を受ける側が用意する書類
- 財産分与協議書または家庭裁判所の調停調書
- 住民票(約300円)
- 固定資産税評価証明書(約400円)
協議書の内容に不備があると登記が受理されないこともあるため、弁護士や司法書士への事前確認が推奨されます。
所有権移転登記は事前に仲介業者に相談しよう
不動産売却における所有権移転登記は、買主に権利を正式に引き継ぐ最終手続きであり、売買契約の成立と同じくらい重要です。
そのため、売却活動を始める段階から、登記や法的手続きについてもサポートしてくれる仲介業者を選ぶことが非常に重要になります。
不動産会社の中には、「販売活動」に特化していて、登記や税務の相談には十分に対応できないところも存在します。こうした業者に任せてしまうと、登記手続きが滞ったり、司法書士選びを任されて不安が残ったりするケースもあります。
そのため、以下のようなポイントを基準に仲介会社を選ぶと安心です。
- 売却だけでなく登記・税務の基礎知識を有する担当者がいる
- 信頼できる司法書士・税理士との連携体制がある
- 所有権移転登記の進行スケジュールを主導してくれる
特に、相続や離婚が関わる不動産売却では、登記に必要な書類や法的な解釈が複雑になることが多いため、登記までトータルでサポートしてくれる不動産会社を選ぶことがトラブル防止につながります。
また、不安な場合は事前に複数の不動産会社に相談し、売却から登記までどのように進めてくれるかを比較検討することも有効です。