不動産売却には契約手続きや書類の準備、作成などに労力がかかります。
作業に時間が取れない、健康上の理由で外出できないなどの事情から、誰かに手続きを依頼できないかと考える人もいることでしょう。
不動産売却を代理人に依頼できるかどうかは、ケースによって異なります。
本記事では不動産売却の手続きは代理人に依頼できるのか、必要な書類、注意点などを詳しく掘り下げます。
不動産売却は高額な取引となるため、相応のリスクが伴います。代理人選びについても言及するため、参考にしていただければと思います。
【免許登録】
宅地建物取引業免許:国土交通大臣(4)第7845号
一級建築士事務所登録:東京都知事 第62093号(東京本社)
特定建設業許可:東京都知事 (特-2) 第135078号(東京本社)
不動産特定共同事業許可:東京都知事 第134号(東京本社)
賃貸住宅管理業登録:国土交通大臣(1)第1722号(東京本社)
不動産売却の手続きは代理人に依頼できる?
不動産売却の手続きを代理人に依頼することは可能です。
以下のような場合では、代理人を活用することでスムーズに進められます。
- 仕事や家庭の事情で売却手続きに時間を割くのが難しい
- 売却したい物件が遠方にある
しかし、代理人に委任できるケース、できないケースがあるため誰でも利用できるわけではありません。
また、代理人を立てる際には、代理権を付与するための手続きが必要になります。
代理人に委任することで手続きの負担は軽減されますが、トラブルの火種が増えかねないため、事前に必要な知識を身につけましょう。
不動産売却を代理人に委任するのに必要な書類
不動産売却を代理人に委任するのに以下の書類が必要になります。
- 代理権委任状
- 委任者(所有者本人)の印鑑証明書
- 委任者の実印
- 委任者の住民票
- 代理人の印鑑証明書
- 代理人の実印
- 代理人の本人確認書類
不動産売却を代理人に依頼する場合、かなり早い段階で依頼することになるでしょう。

高額な不動産の手続きを何度も行うため、不動産会社、司法書士、買主など、複数の方から信用してもらえるよう、厳重な確認作業があり、必要書類も多くなります。
それぞれ解説します。
代理権委任状
代理人に委任するために代理権委任状の作成・提出が必要です。
不動産売却の際の代理人の権限と範囲を明確にするための文書で、書き方に制限はありませんが、仲介業者が定めているフォーマットを利用することが多いです。
- 売買価格の交渉
- 契約の締結
- 代金の受領など
上記のように、代理人ができる範囲を明確にすれば、後のトラブルを避けられます。
同様に、委任状を作成する際は、以下3項目を明確に記載します。
記載項目 | 記載する内容 |
---|---|
土地の表示項目 | 所在、地番、地目、地積など |
建物の表示項 | 所在、家屋番号、種類、構造、床面積など |
委任の範囲 | 媒介委託に関する権限、不動産売買契約の締結に関する権限、手付金や売買代金の受領等に関する権限、引渡しに関する権限など |
それと同時に、委任者本人の住所・氏名・実印、委任者の氏名・住所、書面日付の3点を委任状に記載します。
委任者の実印
委任状には委任者の実印を押印します。
印鑑の種類によって法的効力の高さに違いがあります。

実印は、市区町村に登録された印鑑のため、法的効力を発揮でき、通常の認印とは異なります。
不動産のように高額な取引では信用が必要になるため、実印を使用することが多いです。
委任者(所有者本人)の印鑑証明書
印鑑証明書は、委任者の実印が本物であることを証明する公的な書類です。
家族が実印の場所を知っていれば勝手に使用できてしまうため、印鑑の所有者を明確にするために印鑑証明書の提出が必要になります。
- 一般的に3ヶ月以内の有効期限となる
不動産売却では必須のため、市区町村の役所で取得しておきましょう。
委任者の住民票
委任者の住所を確認するために住民票が求められます。
不動産の登記情報と一致しているか確認し、不動産の所有者が本人であることを証明します。
- 印鑑証明書とセットで確認することで、より厳重な本人確認が可能になる
代理人の実印
委任された手続きを進めるために代理人の実印も必要になります。
代理権委任状にも使用しますが、売買契約書や登記申請書などの重要な種類にも実印で押印します。
法的効力のある印鑑を使うことで、不正を防止する役割も果たしています。
代理人の印鑑証明書
代理人が正式な手続きを行うことになるため、委任者の場合と同様に実印を証明できるように印鑑証明書が必要になります。
代理人の印鑑証明書も有効期限は委任日から3ヶ月以内です。
代理人の本人確認書類
代理人のなりすまし等を防ぐために、本人確認書類が必要です。
- 運転免許証
- マイナンバーカード
- パスポートなどの顔写真付き証明書
実印や印鑑証明書に加えて、顔写真付きの証明書を利用することで信用につながり、その後の取引がスムーズに進められるようになります。
不動産売却を代理人に委託するケース
不動産売却を代理人に委託できるケースは以下のとおりです。
- 売却したい物件が遠方にある場合
- 売買契約締結のために時間を設けるのが難しい場合
- 諸事情により外出が困難な場合
- 共有名義人との顔合わせが難しい場合
売却したい物件が遠方にある場合
- 所有者の居住地から離れている
- 所有者が海外在住である
このような場合には代理人に委託できます。
遠方にある不動産は居住、運用、売却どれもハードルが高くなりがちですが、代理人を利用することで少ない労力で売却可能です。
売買契約締結のために時間を設けるのが難しい場合
多忙な日常を送っている人にとって、不動産の売却に関する手続きや交渉に時間を取るのは難しい場合が多いです。
このような状況で代理人に売却を委託することで、スケジュール調整や交渉、契約手続きなどを専門家が代わりに行ってくれます。
諸事情により外出が困難な場合
健康上の問題から外出が難しい場合や、高齢で移動が難しい場合は、代理人に委託できます。
身体的な負担を軽減しつつ、必要な取引を進めることが可能です。
共有名義人との顔合わせが難しい場合
- 遺産相続などで共有名義となり複数の所有者がいる
- 離婚に伴い夫婦での共有名義の不動産を売却する
このような場合も代理人に委託して不動産売却を進められます。
複数の所有者がいる不動産は、全員の同意を得る必要があります。
上記のように複雑なケースもあるため、不動産売却の情報を共有しながら手続きしましょう。
不動産売却を代理人に委任できないケース
不動産売却を代理人に委任できないケースは以下のとおりです。
- 売主が成年被後見人の場合
- 売主が未成年の場合
- 共有名義不動産を売却する場合
- 不動産が被相続人名義のままの場合
- 代理権委任状に不備がある場合
これらに当てはまっていても、やり方次第で売却できるようになるケースもあるため、どうすれば売却できるようになるかも併せて紹介します。
売主が成年被後見人の場合
成年被後見人とは、判断能力が低下し、家庭裁判所によって成年後見人が選ばれている人のことです。
- 事故や病気による後遺症がある
- 認知症の方
この場合、代理人への委任ができず、成年後見人が売却手続きを行います。
委任状ではなく、成年後見人の権利である、法定代理権に基づいた手続きが必要です。
売主が未成年の場合
未成年者は法律にまつわる行為が行えないため、不動産の売却を代理人に委任できません。
法定代理人もしくは未成年後見人の同意が必要です。
- 法定代理人…親権者(両親) ※両親がいない場合は未成年後見人が法定代理人になる
- 未成年後見人…本人または親族の申し立てで家庭裁判所が選ぶ
代理人は代理権委任状に記載された範囲しか担当できませんが、法定代理人は自らの意思で不動産の売却が可能です。
共有名義不動産を売却する場合
共有名義の不動産は、代理人を立てて売却しようとしても、ほかの共有者が同意していなければ手続きが進められません。
共有名義不動産を売却するのであれば、全員の意思を確認して同意を得た上で行いましょう。
不動産が被相続人名義のままの場合
不動産売却は、自ら所有する不動産でなければ手続きを進められません。
被相続人名義のままだと、代理人を使って他人の不動産を売却しようとしていることになります。
相続登記を行い、被相続人から相続人名義に変更した上で売却しましょう。
代理権委任状に不備がある場合
以下のようなケースでは代理人に委任できません。
- 代理権委任状の内容が不十分
- 記載ミスがある
委任状に記載された権限の範囲が曖昧で、不動産会社や司法書士に修正を求められるのは少なくありません。
複数の解釈ができてしまうような曖昧な文章は不備として捉えられます。
代理権委任状を作成する際の注意点については後述します。
代理人を立てて不動産売却を行うリスク
不動産売却に代理人を立てるのは、売主にも買主にもリスクとなります。
不動産売却は高額な取引になるので、なるべく本人が交渉するのが好ましいです。
どうしても代理人を立てる必要がある人は、リスクを理解した上で代理人を依頼しましょう。
売主に伴うリスク
不動産売却で売主に伴うリスクは、代理人、法定代理人、後見人による権限の乱用です。
特に未成年者が所有する物件の法定代理人を両親が担当する場合、範囲や期間などの明確な取り決めがなければ、未成年者の利益が損なわれる可能性が高まります。

そのため、具体的な売買条件や代理の範囲を明確に記述した委任状を用意しなければなりません。
買主に伴うリスク
買主に伴うリスクは、代理人の正当性についての疑念です。
買主は代理人が正式な代理人なのか判断するのは難しいです。
代理人が悪意を持っており、詐欺を働くリスクもあるため、買主は提出される種類が偽造されていないかの確認も欠かせません。

また、代理人が売主の意思を尊重できていなければ、売主が契約を取り消す場合もあります。
可能であれば売主本人とも直接話す機会を設けることで、リスクを軽減できるでしょう。
不動産売却で代理権委任状を作成する際の注意点
不動産売却の代理人は、家族や親族、信頼できる友人に依頼することが多いですが、代理人に権利を与えるのは危険です。
代理権委任状を作成する際は、その正確性や明確性が極めて重要となります。
第三者との取引では、誤解を招くことのないよう細心の注意が求められます。
- 委任内容を明確かつ限定的にする
- 実印で押印し印鑑証明書も添付する
- 捨印を押印しない
- 曖昧な表現をしない
- 氏名・住所を記載する

委任状の作成において特に注意すべき5つを解説します。
委任内容を明確かつ限定的にする
委任内容は明確かつ限定的にしましょう。
代理人に与える権限を限定すれば、代理人に与えられない権限も把握できます。
- 売却可能な価格条件
- 手付金の金額
- 引き渡し日(予定)
- 契約解除時の違約金額
- 公租公課の分担起算日・お金の支払い日
- 代金・費用の取り扱い方法
- 所有権移転登記などの申請手続きの方法
- 上記の条件に当てはまらないケースをどう処理するか
- 委任状の有効期限
より具体的な記述にすることで曖昧さを回避できます。
- 売却手続きのみ許可するが、価格決定や契約締結は売主の承認が必要
- 売却価格は○○万円以上とし、それ以下では契約できない
実印で押印し印鑑証明書も添付する
委任状はその正式性を示すため、実印での押印が求められることが多いです。
認印でも法的には有効ですが、取引先や関係者への信頼性を担保するためにも、実印での押印が望ましいです。
印鑑証明書や住民票の提出することで更に信頼性を確保できるでしょう。
捨印を押印しない
捨印とは、書類の訂正できるように予め押印しておく印のことですが、内容を修正されるリスクが生じます。
委任内容を明確かつ限定的にするために捨印は使用せず、訂正が必要な場合は売主が直接押印しましょう。
曖昧な表現をしない
「一切の件」のような記述は、委任の範囲が不明確で曖昧なためトラブルの原因になります。
誰が見ても理解できるように委任事項を具体的に細かく指定し、代理人の権限を明確にしておきましょう。
氏名・住所を記載する
同姓同名の他者との混同を避けるためにも、氏名だけでなく住所も記載することを推奨します。
委任者と受任者が一目で分かるようになり、後々の取引でもスムーズに進められます。
不動産売却の代理人の選び方
不動産売却は高額な取引となるため、代理人として選出できる人は限られるでしょう。
代理人の選出は慎重になると思いますが、以下の2つの軸で判断することをおすすめします。
- 信頼できる人を選ぶ
- すぐに連絡が取れる人を選ぶ
それぞれ解説します。
信頼できる人を選ぶ
不動産売却の代理人は信頼できる人を選びましょう。
家族や友人を代理人に選ぶケースもありますが、不動産売却の知識がまったくない方に頼むのはリスクとなります。
高額な取引となるため予期せぬトラブルが発生すると責任は重大です。
- 不動産の知識がある方
- 不動産売却の経験者
- 士業に就いている方
知り合い以外に依頼することもできるため、費用がかかりますが弁護士や司法書士など信用できる職業の方を候補にするのもおすすめです。
すぐに連絡が取れる人を選ぶ
すぐに連絡が取れる人であれば安心して依頼できるでしょう。
不動産売却では機密な情報を共有するため、レスポンスの早さも判断材料になります。
代理人ができる作業は代理権委任状によって限られているため、記載のないことの判断は依頼人に委ねられます。
そのため、すぐに連絡を取り合える関係性で選びましょう。
不動産売却の代理人は慎重に選ぼう
不動産売却は代理人に任せるられますが、売主、買主ともにリスクを伴います。
信頼できる方を代理人に選べば売主は安心できるかもしれませんが、どれだけ信頼できる人であっても買主の不安は拭いきれないかもしれません。
- 依頼人と買主で一度対面する
- 実印や印鑑証明書を活用する
このような方法で安心して取引できるように心がけましょう。
不動産売却は大きな金額が動く取引であり、一度契約してから解除するだけでも百万円以上の費用がかかる場合もあります。
トラブルを防げるように適切に準備し、代理人を慎重に選出しましょう。
本記事が不動産売却を自力売却できない方のお役に立てれば幸いです。