不動産を売却する際、最も重要かつ慎重に対応すべきなのが売買契約です。
契約の内容や進め方を誤ると、後々大きなトラブルや損失に発展する可能性があります。
本記事では、不動産売買契約の基本的な流れ、必要な書類、契約書のチェックポイントまで丁寧に解説します。
契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)などの重要事項についてもカバーしているので、これから契約に臨む方・不動産売却を検討している方はぜひ参考にしてください。
不動産売却で必要な2種類の契約
不動産売却では売却活動を始める前と、買主が見つかった後で、それぞれ異なる契約を結ぶ必要があります。
この2つの契約は目的も内容もまったく異なるため、それぞれの特徴をしっかりと理解しておくことが重要です。
媒介契約
媒介契約とは、不動産会社に売却活動を依頼するための契約です。
売主が単独で買主を探すことも可能ですが、より広く早く売却するためには不動産会社の仲介が一般的です。
なお媒介契約には以下の3種類があります。
- 専属専任媒介契約:1社のみに依頼し、自力での買主発見も不可。定期報告義務あり。
- 専任媒介契約:1社のみに依頼し、自分で買主を見つけた場合は取引可能。報告義務あり。
- 一般媒介契約:複数の不動産会社に同時に依頼可能。報告義務なし。
契約方式ごとにメリット・デメリットが異なるため、売却スピード・信頼性・自由度を比較して、自分に合った方式を選ぶことが大切です。
売買契約
売買契約とは、売主と買主が不動産の売買に合意したことを法的に証明する契約です。
一度締結すると、双方に契約履行の義務が生じ、途中での変更やキャンセルには制限やリスクが発生します。
契約当日には、不動産会社が作成した売買契約書と重要事項説明書をもとに説明・確認が行われ、売主・買主双方の署名・捺印によって成立します。
また、手付金(通常は売買価格の5〜10%)を買主から受け取ることが一般的です。
売買契約は不動産売却における核心であり、内容や条項をしっかり理解し、納得したうえで締結することが求められます。
不動産売買契約の流れ
不動産売買契約は、単に契約書へ署名・捺印すれば完了というわけではありません。
売主・買主の合意に至るまでには、いくつかの重要なステップを順に踏んでいく必要があります。
以下では、契約締結までの代表的な流れをわかりやすく整理しながら解説します。
- 重要事項説明
- 契約書の確認と締結
- 手付金と諸費用の支払い
Step1】重要事項説明
契約の前に必ず行われるのが「重要事項説明」です。これは、宅地建物取引士が売主・買主に対し、物件の法的・物理的な情報を詳しく説明する手続きです。
たとえば以下のような内容が説明されます。
- 登記簿上の権利関係(土地・建物の所有権や抵当権)
- 都市計画・用途地域・建築制限
- 設備の状態や接道状況
- 契約解除や手付解除に関する事項
説明は契約前に書面で交付し対面で行う義務があり、売主も内容に目を通して疑問点はその場で確認しておくことが大切です。
Step2】契約書の確認と締結
重要事項の説明を受けた後、売買契約書の内容を最終確認し、売主・買主が署名・捺印を行うことで契約が締結されます。
契約書には以下のような事項が記載されます。
| 番号 | 項目 | 内容 |
|---|---|---|
| ① | 売買物件の表示 | 物件の面積や間取り、権利者などの詳細 |
| ② | 売買代金、手付金額、支払い日 | 売却代金の詳細(金額・ペナルティなど) |
| ③ | 所有権の移転・引き渡し日 | 物件の所有権はいつ移転されるかの明記 |
| ④ | 公租公課の精算 | 物件に関わるさまざまな費用を引き渡し日を基点に日払い計算した結果 |
| ⑤ | 反社会的勢力の排除 | - |
| ⑥ | ローン特約 | 売買契約から引き渡しまでに受ける住宅ローン審査が不通過だった場合、契約を白紙化できる特例 |
| ⑦ | 負担の消除 | 所有権移転までに抵当権などの担保権・賃借権などの用益権などの一切の負担消除を約束 |
| ⑧ | 付帯設備等の引き渡し | 付帯設備をそのまま物件に付けたまま引き渡すこと、故障等の有無を確認 |
| ⑨ | 手付解除 | 契約キャンセル時の手付金と解除の要件 |
| ⑩ | 引き渡し前の物件の滅失・毀損 | 引き渡し前に災害などが起きた場合どうするかの確認 |
| ⑪ | 契約違反による解除 | 契約内容を違反したときに解除になること、またその際のペナルティの確認 |
| ⑫ | 瑕疵担保責任 | 引き渡し後に欠陥が見つかった場合、何か月(年)以内なら売主に責任を求められるか |
| ⑬ | 特約事項 | その他、法的な順守義務のある項目(強行規定)以外に、売買者間で定めた独自の項目(任意規定) |
特に契約解除条件・契約不適合責任・特約は、トラブルを防ぐうえで非常に重要です。
内容に不明点があれば、不動産会社や司法書士に確認しましょう。
Step3】手付金と諸費用の支払い
売買契約の締結と同時に、買主から売主へ「手付金」が支払われるのが一般的です。
手付金は通常、売買価格の5〜10%程度で設定され、契約の成立と誠意の証とされます。
また、売主側も契約後には以下のような必要経費の精算や準備を進める必要があります。
- 仲介手数料(通常は売却価格の3%+6万円+税)
- 印紙代(契約書貼付用)
- 抵当権抹消や住所変更登記がある場合の登記費用
諸費用は売却額から差し引かれるため、最終的な手取り額の試算を事前にしておくと安心です。
売買契約書のチェックポイント
売買契約書は、不動産取引における最も重要な法的書面です。
一度契約を結ぶと、その内容に従って履行義務が発生するため、署名・捺印前の確認が極めて重要になります。
契約書に記載されている項目を正しく理解し、自身の意図や物件状況と齟齬がないかを入念にチェックしましょう。
特に注意すべきポイントは以下の通りです。
契約物件・価格・支払条件
契約書には、売買の対象となる物件の所在地・地番・面積・建物の構造や築年数などが正確に記載されている必要があります。
登記簿の記載内容と一致しているか、間違いがないかを必ず確認しましょう。
また、売買価格や支払いの内訳(手付金・残代金など)、支払い期日についても明記されています。
金額に関する部分は、後のトラブルを避けるためにも、特に慎重にチェックする必要があります。
契約解除条件と手付解除
不動産売買契約では、万が一のトラブルや事情変更に備えて、契約解除に関する条件が定められています。
中でも代表的なのが「手付解除」です。
手付解除とは、買主は手付金を放棄、売主は受け取った手付金の倍額を返還することで、一定の期間内であれば無条件に契約を解除できる仕組みです。
ただし、この解除は契約書に定められた期限(一般的には1週間程度)までに限られます。
期限を過ぎた解除や、その他の理由による解除には違約金が発生する場合があるため、事前確認が必須です。
契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)
2020年4月の民法改正により、従来の「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」に置き換えられました。
これは、売主が引き渡した物件が契約内容に適合していない場合に責任を負うという制度です。
| 項目 | 瑕疵担保責任 | 契約不適合責任 |
|---|---|---|
| 責任が発生する基準 | 引渡し後に「隠れた瑕疵」が発覚した場合 | 契約内容に「適合していない」と判断される場合 |
| 売主の義務 | 瑕疵の存在を隠していなかった場合は責任を免れることが多い | 契約書に明記されていない不適合は基本的に売主責任となる |
| 買主の請求権 | 損害賠償・契約解除のみ | 損害賠償・契約解除・追完請求・代金減額請求 |
| 通知期限 | 通常は引渡しから1年以内 | 買主が「不適合を知ってから1年以内」 |
例えば、雨漏り・シロアリ・建物の傾きなど、契約で説明されていない不具合が見つかった場合、買主は以下の対応を求めることができます。
| 請求権 | 内容 | 行使条件 |
|---|---|---|
| 追完請求 | 想定した完全な状態になるよう、請求することが出来る(契約上はシロアリ被害が) | 契約と実際の内容に差がある(契約不適合)とき※売主に責任の有無は問われない |
| 代金減額請求 | 修理ができない場合などに、代金の減額・返金を請求することが出来る | 不適合の内容が軽微でなければ請求可能。追完請求に続いて行使されることが一般的 |
| 催告解除 | 追完請求に相手が応じなかった段階で購入を拒否 | 契約の目的が達せられない場合かつ、事前に催告しても売主が対応しないとき |
| 無催告解除 | 催告なしで即時に契約を解除(重大な問題が見られる場合) | 催告しても意味がないほど重大な契約不適合があるとき(例:修繕不能、重大な心理的瑕疵など) |
| 損害賠償請求 | 不適合によって損害を被った場合、その売却を請求できる | 売主に故意・過失があるとき |
売主としては、物件の現状や過去の修繕履歴などを契約書や重要事項説明書で明記しておくことで、リスクを軽減できます。
引き渡し・特約の内容
不動産売買契約では、引き渡しの時期や条件が明記されています。
通常は、残代金の支払いと同時に鍵の引き渡し・所有権移転が行われます。
また、契約書には特約事項として、個別の事情に応じた以下のような条件や取り決めを追加できます。
- ハウスクリーニングを行うか否か
- 家具や設備の残置物の取り扱い
- 引き渡し後の一定期間の立ち退き猶予
これらは口約束ではなく、必ず書面に記載することがトラブル防止の基本です。
契約後〜引き渡しまでにやること
売買契約が締結された後、実際に物件の引き渡しが完了するまでには数週間から1〜2か月の猶予期間があります。
この期間は、買主の住宅ローン手続きや登記準備などが進められると同時に、売主もさまざまな準備を行う必要があります。
以下では、契約後に売主が対応すべき主な作業を紹介します。
各種書類の準備
引き渡しに向けて、売主は登記や精算に必要な各種書類を準備しておく必要があります。
不備があると引き渡し日に手続きが完了せず、取引が遅延する原因になります。
主な準備書類には以下があります。
- 登記済権利証または登記識別情報
- 印鑑証明書(3か月以内)
- 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
- 実印
- 固定資産税納税通知書・精算書
- 管理規約(マンションの場合)
- 鍵・保証書・取扱説明書などの引き渡し物
司法書士や仲介会社の指示に従って、早めに準備・確認しておくことが理想です。
住み替え先の確保
売却後に現在の住まいを明け渡すため、住み替え先を事前に確保しておくことが非常に重要です。
特に住み替えを伴う売却では、売却スケジュールと引っ越しタイミングの調整が成功のカギになります。
以下のような対応を早めに検討しましょう。
- 新居の購入契約または賃貸契約の締結
- 引っ越し業者の予約
- 住民票の移動やライフライン契約の変更手続き
仮住まいが必要になる可能性もあるため、万が一のケースも想定して準備しておくと安心です。
新居の住宅ローン手続き
売主も今の住まいを売却して新居を購入する場合、多くの場合で住宅ローンの新規契約が必要となります。
ここで気になるのが、今の住まいの抵当権が残っている状態で新規の住宅ローン審査は通るのか、契約は有効なのかという点です。
結論から言えば、下記の2点が金融機関に認められて、かつ遵守される場合は住まいの売却前でも住宅ローン審査に通過することは可能です。
- 売却予定であることが認められている
- 契約時に旧住まいの売買契約書(または他の売買を証明できる書類)が提出できる
- 旧住まいの抵当権抹消が引き渡し当日に実行される
ただし、売買契約が破談になってしまった場合や、売主自身が売却をキャンセルする場合、買い先行で進めたい場合などは住宅ローンの契約がかなり難しくなると考えて良いでしょう。
売買契約の解除条件
一度締結された不動産売買契約でも、一定の条件を満たせば解除が可能です。
ただし、解除には手付解除・違約解除・合意解除といったパターンがあり、それぞれに制限やリスクが存在します。
安易に契約を破棄すると違約金の支払いや損害賠償請求に発展するおそれがあるため、解除条件や流れを正しく理解しておくことが大切です。
ここでは、契約解除の主なケースと注意点について詳しく解説します。
手付解除・違約解除による契約解除が一般的
不動産売買契約では、以下のような形で契約の解除が可能です。
- 手付解除:買主は手付金放棄、売主は倍返しで解除可能(ただし契約書に定めた期限内に限る)
- 違約解除:契約違反があった場合に解除され、違約金の支払いや損害賠償の対象になる
手付解除は、期間内であれば一方的な意思で契約を解除できる柔軟な制度ですが、期限を過ぎると違約解除扱いになり、多大なリスクを伴います。
特に売主は、契約後のキャンセルにより次の購入や住み替え計画に大きな影響が出ることもあるため、解除条項の内容は十分に把握しておくべきです。
契約不適合責任の追及により後から契約が解除されることも
売買契約前に、物件の状態や権利関係に関する重要事項を売主・買主間で十分に確認・共有していないと、契約後のトラブルに発展することがあります。
たとえば以下のようなケースが該当します。
- 越境物(フェンスやカーポートなど)があるのに事前に説明していなかった
- 隣地との境界が未確定だった
- 設備の不具合や修繕歴を隠していた
こうした情報の不一致は、契約不適合責任の追及や契約解除、損害賠償の対象になりかねません。
契約書や重要事項説明書には、物件の状況を正確に記載し、買主と十分に共有しておくことが重要です。
不動産売買契約に関するよくある質問
不動産売買契約に関する疑問は多くの方が抱えています。
特に初めての売却となると、手続きの流れ・トラブルのリスク・不動産会社の選び方など、事前に理解しておきたいことがたくさんあります。
ここでは、契約前によくある質問と、実務上注意すべきポイントについて整理しました。
不動産売買が完了するまでの期間は?
主なスケジュールは以下の通りです。
- 売却活動(広告・内覧・交渉)…1〜3か月
- 売買契約締結
- 買主のローン審査・登記準備…1〜1.5か月
- 残代金決済・引き渡し
ただし、物件の立地・状態・市況によっては、売却まで半年以上かかるケースもあります。
複数の不動産会社と契約することも可能?
一方、「専任媒介契約」や「専属専任媒介契約」は1社のみに依頼する契約となり、複数社との並行契約はできません。
| 契約の種類 | 契約の有効期間 | 売り手自身が買い手を見つけること | 依頼可能な業者数 | 仲介業者からの報告 ※規定されてい最低限の回数であり、実際の連絡回数は業者によって異なる |
|---|---|---|---|---|
| 専属専任媒介契約 | 3ヶ月以内 | できない | 1社のみ | 1週間に1回、メールか文書で連絡 |
| 専任媒介契約 | 3ヶ月以内 | できる | 1社のみ | 2週間に1回、メールか文書で連絡 |
| 一般媒介契約 | 3ヶ月以内 | できる | 複数社と契約可能(契約数の上限なし) | なし |
こうしてみると複数社と同時に契約できる一般媒介契約の方が魅力的に思えますが、一般媒介契約では仲介手数料を支払われるのは成約した1社のみとなるので、仲介業者が広告コストを出しにくい上に販売活動の報告義務もないという、意外と売主にメリットの少ない契約となります。
そのため、(専属)専任媒介契約を選ぶのが、不動産売却ではより一般的です。
不動産会社を選ぶときのポイントは?
基本的な選び方としては、不動産一括査定サイトなどを使い、複数社の査定結果を比較する方法があります。
ただし、査定価格を比較するだけでは本当に良い業者を見つけることはできません。会社の事業規模や信頼性、担当者の人柄などもチェックして慎重に選びましょう。
不動産売買契約は慎重に進めよう
不動産売買契約は、人生の中でも特に大きな取引の一つです。
一度契約を結べば、法的な責任と義務が発生するため、内容の理解・準備・確認が何より重要です。
契約書の読み込みや重要事項説明への理解、不動産会社との信頼関係づくりを丁寧に進めることで、後悔のない安全な取引を実現できます。
「面倒そうだから任せきりにしよう」と思わず、自分でもしっかり内容を把握して納得したうえで契約を結ぶように心がけましょう。
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