不動産売却は、日本国内の物件を日本国籍の者同士で取引することが原則となっていますが、外国籍の方でも必要書類を準備することができれば、取引は可能です。
同様に、非居住者と呼ばれる長期海外滞在の日本人でも不動産売却は可能ですが、このときの手続きは通常の取引と異なります。
ただでさえ海外に住みながら不動産売却をするのは難しいので、必要書類などの違いはなるべく早く学んでおくようにしましょう。
この記事では、非居住者が不動産売却をするときの流れや必要書類、注意点などについて解説します。
不動産売却では非居住者は外国籍扱い?
不動産売却をおこなう海外在住者の方は、日本の在住期間や住んでいる場所などによって以下の3タイプに分かれます。
- 中長期在留者等
- 中長期在留者等以外
- 海外在住者(非居住者)
海外在住歴が1年未満の場合は、長期の用事で日本を離れている人という扱いをうけ、国内のルールが適用されます。
在住歴が1年を超えると、日本国籍でありながら、外国のルールに則って生活しているとみなされ、非居住者扱いになります。
非居住者になったら日本国内の不動産を売却するための手続きが複雑になります。
日本在住の外国人でも住民票を持っていれば不動産売却できる
在住歴の長い外国人が特別扱いを受けるのは日本在住の外国人も同じです。
日本の中長期在留(3か月以上)を許可された外国人であれば、住民票への登録が可能となります。
住民票に登録できるということは、売買契約時に本人確認書類を提出できるということでもあるので、国籍に関わらず契約を結べます。
一方、短期在留の外国人や非居住者は住民票が登録されていないので、不動産売却ができません。
非居住者による不動産売却の流れ
非居住者は住民票などの重要書類を発行できないので、査定を受ける前にまず代替書類を準備する、ルールの違いを整備するといった作業が必要となります。
そうした手続きを加えると、非居住者の不動産売却は以下の流れとなります。
- 司法書士へ依頼
- 書類準備
- 仲介業者と媒介契約
- 販売活動・内覧
- 決済・引き渡し
ただ、非居住者というのは1年以上海外に住んでいる人のことを指すので、在留期間がそれ以下の人、まだ住民票に登録されている人は一般的な流れで不動産売却ができます。
【Step1】司法書士へ依頼
不動産を査定する前にまず司法書士へ依頼をします。
司法書士は2国間のルールの違いを踏まえて、有効な書類を作成・提出してくれますよ。
しかし、日本でとった司法書士の資格は日本でしか通用しないので、海外では住んでいる国の資格を持っている司法書士に依頼するようにしましょう。
こうした状況が良くわからないのであれば、まずは日本の司法書士に相談をするのも良いでしょう。
【Step2】書類準備
一般的な不動産売却の書類準備とは異なり、自分の身分を証明する書類の海外版を準備する必要があります。
海外在住者が準備しなければならない書類は、以下の2点です。
- 在留証明書
- サイン証明書
在留証明書とは、売り手がどこの国に住んでいるのかを証明するための書類です。
住民票や住所証明書が手に入らない分必要となり、こうした書類の代替として利用できます。
サイン証明書は、日本における印鑑証明書のようなもので、サインが公的なものであると証明するものです。
これらの書類は、日本領事館か日本大使館で入手することが可能です。
国によっては自分で書類を作成するケースも
司法書士が作成できる書類は依頼をしておけば良いですが、いくつかのものは自分で手続きをしなければなりません。
住民票の代わりとなる「住所の宣誓供述書」などは、フォーマットがなく自分で作成するものなので、司法書士に相談をしながら作っていくと良いでしょう。
作成が完了した後は在住国の日本大使館に公的な書類として扱えるか認証してもらうことをおすすめします。
また、非居住者が不動産売却をおこなう場合、印鑑証明書の代替書類も必要となります。
登記委任状で代替できるので、これも日本大使館で取得しましょう。
【Step3】仲介業者と媒介契約
日本の不動産業者の中には海外に支店がある大手フランチャイズも多いですが、地方にある不動産などは、こうしたフランチャイズよりも地元の老舗業者に仲介を依頼したほうが良い結果になるといわれています。
ただ、老舗業者は非居住者の不動産売却を取り扱っていない可能性も高いですし、直接対面できる機会が少ないのは危険です。
海外に支店がない業者に依頼する場合は、なるべく現地に趣いて自分の足で仲介先を選ぶようにしましょう。
【Step4】販売活動・内覧
販売活動や内覧の手配は、仲介業者が基本的におこなってくれるので、非居住者でも安心です。
ただ、離れた地域で不動産売却を依頼するのは、やはり不安が多いです。
定期的に活動内容を確認するルールを決めておきましょう。
また、契約や価格交渉は、いくら業者に一任とはいえ、売り手の承認が不可欠です。
時差が大きい場合は大変ですが、業者と買い手が会うときは、なるべく売り手も電話をすぐできるように待機しておくことをおすすめします。
【Step5】決済・引き渡し
内覧をおこない、買い手が不動産を気に入ってくれたなら、売買契約を結び、物件を売却します。
契約や引き渡しは売り手も出席する必要があるので、スケジュールをしっかり確認しておきましょう。
出席が難しいという場合は代理人を立てることもできますが、この方法にはリスクもあるので気を付けましょう。
販売活動が上手くいけば、売買契約、決済・引き渡しと手続きが進みます。
ただ、売買契約は特に重要な手続きのため、買い手が本人の出席をのぞむ可能性が高いです。
どうしても都合がつかないときは、代理人を立てるという方法もありますが、権限をどこまで委任するかの線引きをしっかりと決めておくことがこの場合は大切です。
代理人を立てて不動産売却をする注意点
実際には、海外に住みながら不動産を売却するのは非常に難しいため、代理人を立てて手続きをおこなうようになると思います。
この場合は、上記の書類に加えて更に以下の書類が必要になります。
- 代理権限委任状
- 代理人の印鑑証明書
- 代理人の実印
- 売り手と代理人の本人証明書類
これらの書類の中で売り手自身が特別に準備しなければならないのは、代理権限委任状でしょうが、これは不動産業者に依頼すればフォーマットをくれることが多いです。
代理人の選定は誰でも良いというわけではなく、いくら信頼できる友人でも注意が必要です。
通常では考えられないほどの大金を取引するので、なるべく家族・親族に依頼するほうが良いでしょう。
代理人がどこまで決められるかの線引をする
不動産売却の契約や交渉を代理人に一任すると非居住者は楽ですが、金額の値下げから家具の処分まで全部勝手に決められても困ります。
特に、目標金額を無視して勝手に値下げされたら大損ですよね。
代理人を立てるときは、代理人がどこまでの範囲で行動できるのかを示した代理権委任状をしっかり作成することをおすすめします。
非居住者の不動産売却で必要な書類まとめ
非居住者の不動産売却では、以下の書類を準備する必要があります。
- 在留証明書
- 署名証明(サイン証明書)
- 身分証明書
- 権利証もしくは登記識別情報
- 固定資産税納税通知書
- 評価額証明書
- 代理権限委任状※契約立ち合いが不可能な場合
契約に立ち会えない場合は、代理権限委任状を必ず用意しましょう。
非居住者の不動産売却は源泉徴収・仲介手数料に注意
不動産売却で利益がでると譲渡税が発生しますが、これは海外在住者の場合も同様です。
ただし、海外在住者はその他にも源泉徴収を支払わなければなりません。
徴収額は不動産売却代金の10.21%となっているので、海外で不動産売却をおこなうと日本に住んでいるときの89.71%しか支払われないということになります。
一戸建ての場合は一般的に4000万~5000万円ほどの価格になるので、50万円近くを損してしまうことになります。
住み替え予定の方などは特に注意しましょう。
アメリカでは仲介手数料は売却価格の6%
日本では、仲介手数料は売却価格に応じて以下のように決まっています。
取引額 | 仲介手数料(法定の上限額) |
---|---|
200万円以下 | 売却額×5% |
200万円超400万円以下 | 売却額×4%+2万円 |
400万円超 | 売却額×3%+6万円 |
一方で、アメリカは州によって異なりますが、価格に関わらず、売却額×6%を仲介手数料として求められることが多いです。
アメリカの不動産業は両手仲介を禁止しているなど、透明度や営業マンのパフォーマンスが高いと言われますが、その分依頼のコストもかかるので注意しましょう。
非居住者の不動産売却にかかる源泉徴収費はいくら?計算・シミュレーション
非居住者の不動産売却では、売却代金から源泉徴収がおこなわれます。
源泉徴収は、不動産を購入した買主が期限(翌月10日)までに税務局へ納付します。
買主が負担をするのは国内で生じた利益を非居住者が申告漏れするのを防ぐためであり、実質的な負担は売主がおこないます。
源泉徴収の税率は10.21%
源泉徴収は支払金額の10.21%と決まっています。
ただ、1,000万円の物件を購入した場合、売主に支払われる代金は10.21%を差し引いた額、つまり本来の価格の89.79%となります。
つまり源泉徴収の対象となっている場合、利益の約1割が引かれるため注意が必要です。
非居住者の不動産売却で源泉徴収がかからない例外
非居住者の不動産売却では基本的に源泉徴収が必要ですが、以下のケースでは源泉徴収がかかりません。
- 不動産の購入者が個人
- 物件を購入者本人や親族が利用する
- 売却代金が1億円以下
上記の例外を考えると、通常の居住用不動産を個人間で売買する際に、源泉徴収がかかるケースはそこまで多くないことが分かります。
非居住者の不動産売却で譲渡所得が発生した時の確定申告
非居住者の不動産売却で譲渡所得が発生した場合は、海外在住だとしても国内で確定申告をおこなう必要があります。
ただ、確定申告をおこなえる期間は基本的に1か月(2月15日~3月15日)しかないので、日本に戻ってこれない可能性もあります。
この際、納税管理人を定め、申告手続きを代行してもらいます。
納税管理人は出国前に選定することが多いですが、出国後の届け出可能です。
ただ前述の通り申告期限は限られているので、不動産売却で税金が発生なタイミングで早めに選任手続きをする必要があります。
納税管理人は一般的に親族を選任しますが、事業者などは法人に依頼することもできます。
納税管理人を選定したら、所得税の納税管理人の届出書」を提出する必要があります。
非居住者の譲渡所得税を計算する方法
国内の不動産売却では、発生した税金は所得税と住民税に上乗せされます。
短期譲渡所得(不動産所有期間が5年以内) | 長期譲渡所得(不動産所有期間が5年超) | |
---|---|---|
所得税 | 30.63% | 15.315% |
住民税 | 9% | 5% |
ただ、非居住者は住民税を支払わなくて良いので、所得税の課税分だけを払うようになり、国内の不動産売却よりもお得になります。
非居住者でも3000万円特別控除などの利用が可能
非居住者でも不動産売却で発生した課税に対しては、3000万円特別控除などの特例を利用することが可能です。
ただ、住まなくなってから3年が経過する年の12月31日までに売却しないと3000万円特別控除が受けられないので注意しましょう。
また、出国時に別荘や事業用などに用途を変更した際も特例を受けられません。
非居住者の不動産売却でかかる税金まとめ
非居住者の不動産売却では、主に譲渡所得税・印紙税・登録免許税の3種類が課税されます。
これは源泉徴収にかかわらず課税されるので注意が必要です。
また、譲渡所得税の住民税上乗せがないことを除き、国内の税率・計算式が非居住者にもそのまま適用されます。
かかる税金 | 計算式 |
---|---|
譲渡所得税 | {売却代金-(取得費+売却費用)-特別控除}×税率※所得税のみ |
印紙税 |
|
登録免許税 | 物件の数×1,000円 |
海外在住者の不動産売却は業者選びが何よりも重要!
不動産業者によっては海外在住者の仲介をおこなっていないというところもありますし、売却額の1割を損する分、複数業者に査定を出してしっかりと価格を比較する必要があります。
そのため、こうした特殊なケースほど、業者選びが重要となってきます。
不動産一括査定サービスを活用すれば、簡単に査定額を比較することができますが、良いと思った業者が必ずしも海外在住者の仲介をしているわけではないので注意しましょう。
なるべく多くの不動産業者とコンタクトを取ろう
海外で日本の不動産を売却するのは大変なので、近くに支店のある日本の不動産業者と媒介契約を結ぶのがおすすめです。
ただ、物件の種類や所在地域によっては、こうした大手業者に依頼をすることがベストではない場合も多いです。
手続きがしやすい業者と最も利益がのぞめる業者は相まみえないことがよくあるので、なるべく多くの業者とコンタクトを取り、信頼ができ、バランスが取れているところに仲介を依頼しましょう。
非居住者(海外在住者)が不動産売却する際によくある質問Q&A
非居住者・海外在中者が日本の不動産を売却した場合、日本の税金は発生しますか?
日本の税金は発生します。
非居住者や海外在中者が日本の不動産を売却した場合、譲渡所得が発生し、それに対して日本の所得税や住民税が課されます。
二重で税金が発生しないように注意しましょう。
海外に住んでいるが日本の不動産売却による税金の申告はどうすれば良いのですか?
不動産売却による所得税や住民税の申告は、売却年の翌年の2月16日から3月15日までの期間に行う必要があります。
非居住者や海外在中者の場合、申告書を郵送したり、電子申告システムを利用したりすることで申請可能です。
期限を過ぎてしまうと、申告したとしても納税金額が高くなってしまうので注意が必要です。
非居住者・海外在中者が日本の不動産を売却する際の税金はどのように計算されますか?
非居住者や海外在中者が日本の不動産を売却する際、売却価格から購入価格や改修費用などの必要経費を引いた金額が譲渡所得となり、それに対して所得税や住民税が計算されます。
また、特別控除が適用されることもあります。
非居住者・海外在中者の不動産売却で、印紙税や登録免許税はどうなりますか?
非居住者や海外在中者でも、日本の不動産売却に際して印紙税や登録免許税は発生します。
印紙税は契約書に、登録免許税は名義変更の登記にそれぞれ課されます。
中古物件を国内と同じ条件で売り切るのは根気が必要
いくら非居住者とはいえ、日本の不動産を売却するのであれば、周辺地域の競合物件よりも早く高く売る意識を持たなければいけません。
競合物件の売り手が日本に住んでいるのであれば、情報を仕入れるスピードは段違いに早いでしょうし、業者との意思疎通も非居住者より進んでいるでしょう。
こうしたことは仕方がない部分もありますが、物件を売り出した以上は彼らと対等に戦うという覚悟と計画を持って臨みましょう。