不動産を売却する際は、売主に対して複数の税金・費用がかかる点に注意が必要です。
- 印紙税
- 登録免許税
- 譲渡所得税(所得税・住民税・復興特別所得税)
- 消費税
- 仲介手数料
これらの税金・費用が売却代金から引かれることで、手残りはどうしても減少してしまいます。
そのため、利益を増やして損をしないためにも、税金対策をしっかりとおこなう必要があります。
ここからは、不動産売却をするなら把握しておきたい税金対策を13点紹介していきます。
不動産売却でかかる主な税金と課税タイミング
- 印紙税
- 登録免許税
- 譲渡所得税
- 復興特別所得税
- 住民税(譲渡所得に対する課税)
これらの税金は、売却の各段階でそれぞれ異なるタイミングで発生します。
特に確定申告が必要な税金は、引き渡しの翌年に支払いが発生するため、あらかじめ資金計画に組み込んでおくことが重要です。
| 税金の種類 | 発生するタイミング |
|---|---|
| 印紙税 | 売買契約時 |
| 登録免許税 | 所有権移転登記(引き渡し時) |
| 譲渡所得税 | 引き渡し翌年の確定申告時(2〜3月) |
| 復興特別所得税 | 譲渡所得税に付随して課税(確定申告時) |
| 住民税 | 引き渡し翌年の6月以降に課税通知 |
売却時に発生する5つの税金
不動産を売却する際に発生する税金は、大きく5種類に分けられます。これらは「契約時」「引き渡し時」「翌年の確定申告」など、発生タイミングが異なるため、事前に全体像を把握しておくことが重要です。
| 税金 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 印紙税 | 売買契約書に貼付する収入印紙にかかる税金 | 契約書の記載金額に応じて税額が決まる。 |
| 登録免許税 | 不動産の名義変更(所有権移転登記)時に課される税金 | 不動産の固定資産税評価額などを基に算出される。 |
| 譲渡所得税 | 売却によって得た利益(譲渡所得)に対して課税される所得税 | 税率は所有期間によって異なる。 |
| 復興特別所得税 | 譲渡所得税に上乗せして課される目的税 | 原則として所得税額の2.1%。 |
| 住民税(譲渡所得分) | 譲渡所得に対して翌年の6月以降に課される地方税 | 所得税とは別枠で発生する。 |
この中で最も税額が大きくなりやすいのが「譲渡所得税」と「住民税」であり、節税対策の中心となるのもこの2つです。
これらの税金は「売却価格」ではなく「譲渡所得(=利益)」に対して課税されます。
譲渡所得税がかかる条件と計算式
譲渡所得税は、不動産の売却によって利益が出た場合に課される税金です。具体的には「売却価格」から「取得費」と「譲渡費用」を差し引いた金額が譲渡所得となり、それに一定の税率がかかります。
このうち「取得費」は、不動産を購入した際の費用(購入代金や登記費用など)を指し、「譲渡費用」は売却にかかった仲介手数料や印紙代などが含まれます。
なお、取得費が不明な場合は、売却価格の5%を「概算取得費」として計算することが可能ですが、実際の取得費よりも少額になるケースが多く、結果的に課税所得が大きくなってしまいます。
また、譲渡所得税には「所有期間」による税率の違いがあります。所有期間が5年以下であれば短期譲渡所得として最大39.63%、5年超であれば長期譲渡所得として最大20.315%が課税されるため、売却タイミングも節税の重要なポイントとなります。
税金対策1】取得費を正確に把握する
不動産売却における節税対策の基本は、譲渡所得税の課税対象となる譲渡所得をできるだけ小さく抑えることです。
譲渡所得は売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いて求められるため、取得費が高額になるほど、課税額は少額になります。
- 設計変更費用
- 増改築リフォーム費用
- 仲介手数料
- 不動産取得税
- 登録免許税や登記手数料
- 契約書の印紙代
- ローン事務手数料
- ローン保証事務手数料
- 固定資産税・都市計画税の精算金
- 抵当権設定の登録免許税や登記手数料
- 建物に付属する設備費
- 建築費や工事にかかった諸費用
- ローン借入日~所有開始までにかかったローン金利
- ローン借入日~所有開始までにかかったローン保証料
- ローン借入日~所有開始までにかかった団体信用生命保険料
取得費には、土地・建物の購入代金のほか、不動産取得税や登記費用、仲介手数料、ローンの事務手数料など、取得に要した各種費用が含まれます。
相続や贈与で取得した不動産でも、取得時の費用を遡って計上できるケースがあります。
一方で、取得費が不明な場合は、売却価格の5%を概算取得費として扱うことになります。しかし、この概算は実際の取得費よりも低くなることが多く、結果的に譲渡所得が大きくなり税負担も増える傾向があります。
上記で取得費にできる費用を一覧で紹介しましたが、どのような費用が取得費として認められるかについては物件の状態や売却時の状況などによっても異なるため、税理士などに確認しながら進めることをおすすめします。
取得費がわかると節税額に大きな差が出る
取得費を正確に把握できるかどうかは、譲渡所得税の課税額に直結します。たとえば、3,000万円で不動産を売却した場合、実際の取得費が1,800万円であれば譲渡所得は1,200万円です。
一方で、取得費が不明で概算取得費(=譲渡価格の5%)を使った場合、取得費は150万円(=3,000万円×5%)となり、譲渡所得は2,850万円に跳ね上がります。
この差に税率(最大20.315%~39.63%)がかかるため、数百万円単位の税負担差が発生することになります。
- 取得費1,800万円 → 譲渡所得1,200万円
- 概算取得費150万円 → 譲渡所得2,850万円
- 差額:1,650万円 × 税率(最大約40%) ≒ 660万円の税負担差
取得費に関する情報や資料は築年数の古い物件ほど調査しにくくなりますが、下記のような方法で調べることは可能です。
- 購入時の通帳履歴や振込記録から購入額を特定する
- 住宅ローンの契約書・返済計画表から融資額を確認する
- 当時の不動産会社(売主や仲介)に連絡して価格情報を問い合わせる
- 当時の固定資産税評価額や地価公示などを参考にする
- 登記簿謄本の「抵当権設定額」から概算する
税金対策2】 譲渡費用を正しく多く計上する
譲渡所得税の節税では譲渡費用をできる限り正確に、かつ漏れなく計上することも重要な対策です。
譲渡費用とは、不動産を売却するために直接かかった費用を指し、譲渡所得から控除できます。
計算式に当てはめると、以下のようになります。
つまり、譲渡費用が多くなるほど、譲渡所得は少なくなり、課税対象額も小さくなるという仕組みです。
代表的な譲渡費用には、以下のようなものがあります。
- 不動産会社に支払う仲介手数料
- 売買契約書に貼付した印紙税
- 売却に際して行った建物の解体費用
- 立退料(賃貸中の物件を売却する際に借主へ支払った費用)
- 測量費用・境界確定費用
- 売却をスムーズにするために支払った権利関係整理費用
これらの費用は、原則として「売却の直接的な必要性があったこと」「領収書などの証拠資料があること」が条件です。裏付けとなる書類がある場合は、必ず保管し、確定申告時に添付または提示できるようにしておきましょう。
譲渡費用として計上できない項目に注意
不動産売却に伴って発生した費用であっても、税務上は譲渡費用として認められないものが多数あります。
これらを誤って譲渡費用として申告してしまうと、税務署からの修正指摘や追徴課税の対象となる恐れがあるため注意が必要です。
- 引っ越し費用
- つなぎ融資(売却前ローン)の金利や手数料
- ハウスクリーニングや家電・家具の購入費
- 固定資産税・都市計画税(売主負担分)
- 管理費・修繕積立金(マンションの場合)
- 火災保険料や解約返戻金
- インターネットやケーブルテレビの契約料
これらは生活費や維持管理費、あるいは個人の事情による費用とみなされるため、譲渡所得から控除することはできません。
判断が難しい費用については、不動産会社や税理士に事前に確認しておくと安心です。
税金対策3】リフォーム費用を取得費に加える
不動産の売却前に行ったリフォームや購入後に実施した大規模改修の費用は、一定の条件を満たせば取得費として加算することができます。
リフォーム費用を取得費に含めることで、譲渡所得が減少し、節税につながる可能性があります。
ただし、すべてのリフォームが対象となるわけではなく、取得費に加算できるのは「資産価値の増加を伴う工事」に限定され、単なる修繕や原状回復といった維持管理目的の工事費用は取得費には含められません。
- 耐震補強工事・増築・間取り変更
- システムキッチン・ユニットバスの交換
- 二重サッシ・断熱材の導入
- 屋根や外壁の葺き替え・張替え
- バリアフリー化工事
一方で、以下のような費用は取得費には加算できません。
- クロスの張替え・クリーニングなどの美装
- 設備の修理・交換(故障対応レベル)
- 給湯器の修理や排水管の清掃
リフォーム費用が数百万円〜1,000万円以上となるケースでは、取得費への加算による節税効果も大きくなります。
契約書や見積書、施工証明書、振込記録など、リフォームに関する証拠書類は必ず保管しておきましょう。
税金対策4】条件を満たす特別控除を適用する
不動産売却における譲渡所得税の節税対策として最も有効なのが、特別控除を活用する方法です。
一定の条件を満たせば、譲渡所得から大幅に控除が受けられるため、実質的に課税対象額がゼロになるケースも少なくありません。
特に居住用財産の売却では「3,000万円の特別控除」が代表的ですが、それ以外にも用途や売却理由、対象物件の性質によって複数の控除制度が設けられています。
- 3,000万円特別控除(居住用財産)
- 取得費加算の特例(相続税を取得費に加算)
- 軽減税率の特例(所有期間10年超の長期保有者)
- 特定居住用財産の買換え特例
- 譲渡損失の損益通算および繰越控除(居住用買換え)
- 収用・開発による特別控除(5,000万円、2,000万円、1,500万円など)
- 農地売却による800万円控除(農地中間管理機構などへの譲渡)
これらの控除や特例にはいずれも適用条件が定められており、併用制限や申告手続きの期限などにも注意が必要です。
| 控除名 | 最大控除額 | 主な条件 |
|---|---|---|
| 3,000万円特別控除 | 3,000万円 | 居住用財産の売却/親族間売買でない/過去2年以内に同特例を受けていない |
| 取得費加算の特例 | 相続税の一部 | 相続税の申告期限後3年以内に売却/相続税の申告・納付済 |
| 軽減税率の特例 | 税率:14.21%に軽減 | 居住用/所有期間10年以上/他の特例と併用不可(特定条件下で可能) |
| 農地売却の特別控除 | 800万円〜1,500万円 | 農地中間管理機構等への譲渡/市町村のあっせんによるもの |
| 公共事業による土地収用 | 5,000万円 | 国や自治体の事業による強制的な収用・譲渡など |
これらの控除は、基本的に確定申告での適用申請が必要です。
また、他の控除や特例との併用可否にも注意が必要で、「3,000万円特別控除」と「軽減税率の特例」は原則併用できません(ただし一部例外あり)。
3,000万円特別控除の利用条件
3,000万円特別控除は不動産売却における最も強力な節税制度のひとつです。
自宅などの居住用財産を売却した際、譲渡所得から最大3,000万円までを非課税とすることができ多くのケースで譲渡所得税そのものがゼロになる可能性があります。
この特例を適用するには、一定の条件を満たす必要があります。
- 売却する不動産が自身の「居住用財産」であること
- 住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡
- 親子・夫婦・生計を一にする親族などへの譲渡でないこと
- 過去2年間に同特例や一定の他の特例を適用していないこと
- 確定申告を正しく行い、適用を申請すること
以下は具体的なシミュレーションです。
- 譲渡価格:5,000万円
- 取得費・譲渡費用合計:2,000万円
- 譲渡所得:5,000万円 − 2,000万円 = 3,000万円
- → 特別控除適用後:3,000万円 − 3,000万円 = 0円
- 課税対象なし → 税額:0円
仮にこの控除を使えなかった場合、課税所得3,000万円に対して長期譲渡所得税(約20.315%)がかかり、約609万円の納税が発生することになります。つまり、この制度を使えるだけで600万円超の節税が可能になるのです。
なお、この特例は相続空き家や共有名義の物件にも条件を満たせば適用可能です。※この場合、共有名義人1人につき、最大3,000万円の控除が適用されます。
税金対策5】 税率が下がるタイミングで売却する
譲渡所得税は不動産を所有していた期間によって税率が異なります。
5年以下の所有で売却すると高い税率が適用され、5年を超えると長期譲渡所得となり、税率が大幅に下がります。
さらに、10年を超える居住用財産の場合は軽減税率の特例によって、より有利な税率が適用される可能性もあります。
| 所有期間 | 所得税 | 住民税 | 合計税率 |
|---|---|---|---|
| 5年以下(短期) | 30.63% | 9% | 39.63% |
| 5年超(長期) | 15.315% | 5% | 20.315% |
| 10年超+軽減税率(適用条件あり) | 10.21% | 4% | 14.21% |
たとえば同じ3,000万円の譲渡所得があった場合、短期では約1,189万円、長期では約609万円、軽減税率適用時には約426万円と、数百万円単位の税負担差が生じることになります。
5年超または10年超のタイミングまで待つことで節税につながる可能性がありますが、市場価格の変動や築年数経過による物件の劣化リスクも考慮する必要があります。
税金対策6】住宅ローン控除の併用を検討する
不動産売却後に住み替えを行う場合、新居の購入に伴って住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)を利用できるケースがあります。
これは、年末時点の住宅ローン残高に応じて所得税・住民税の一部が還付される制度であり、最大で10年間(一定条件で13年間)にわたり節税効果が得られます。
令和7年度税制改正において、住宅ローン減税の制度内容が変更されました。
<令和7年度税制改正のポイント>
以下のとおり、令和6年と同様の措置を引き続き実施。
○ 借入限度額について、子育て世帯・若者夫婦世帯※が令和7年に新築住宅等に入居する場合には、令和4・5年入居の場合の水準〔認定住宅:5,000万円、ZEH水準省エネ住宅:4,500万円、省エネ基準適合住宅:4,000万円〕を維持する。
※1:年齢19歳未満の扶養親族を有する者、※2:年齢40歳未満であって配偶者を有する者又は年齢40歳以上であって年齢40歳未満の配偶者を有する者が、住宅ローン減税の適用を受ける場合(※1又は※2に該当するか否かについては、入居した年の12月31日時点の現況による)が対象となります。
○ 新築住宅の床面積要件を40㎡以上に緩和する措置(合計所得金額1,000万円以下の年分に限る。)について、建築確認の期限を令和7年12月31日(改正前:令和6年12月31日)に延長する。
ただし、「3,000万円特別控除」との併用には制限があるため注意が必要です。
- 所得税から年末ローン残高の0.7%(最大:年間35万円)が控除
- 新築または一定条件を満たす中古住宅が対象
- 10年間(条件により13年間)の控除期間
- 確定申告初年度以降は年末調整で適用可能
ただし、これは「同一不動産に対して両方を適用することができない」という意味であり、次のような状況であれば制限を回避できるケースもあります。
- 売却不動産に3,000万円特別控除を適用し、購入不動産には住宅ローン控除を適用
- 売却と購入が別年度にまたがる(課税年度が異なる)
とはいえ、申告内容が複雑になるため、併用を検討する場合は税理士のサポートを受けながら正確に手続きを進めることが推奨されます。
税金対策7】増税や金利上昇がおこなわる前に売却する
不動産売却における節税対策として、税制改正による増税が実施される前に売却を済ませるという戦略も有効です。
たとえば、2019年に消費税が8%から10%に引き上げられた際には、駆け込み売却が増加し、市場が一時的に活性化しました。
売却時にかかる消費税は原則として土地には非課税、建物部分にのみ課税されますが、それでも売却価格や買主の購買意欲に大きな影響を与える要因となります。
- 買主側の資金負担が増加 → 価格交渉が激化
- 建物部分にかかる消費税の増加 → 実質手取り減
- 契約時期によって適用税率が異なる → 引き渡し時点の税率が基準
特に最近では、2024年3月にマイナス金利政策が解除されてから2025年以降、本格的に住宅ローン金利の上昇がみられており、買主にとっては購入負担が今までより増える可能性は十分あります。
住宅ローン金利は今後上がり続けるリスクも十分あるので、早めに売るべきかの判断が重要になります。
税金対策8】相続空き家は3,000万円特別控除の対象に
本来「3,000万円特別控除」は自己が居住していた不動産の売却に適用される制度ですが、一定の条件を満たすことで相続した空き家にも適用することが可能です。
特に、昭和56年5月31日以前に建築された旧耐震基準の住宅が対象であり、譲渡前に耐震改修を行うか、更地として売却することで控除が受けられます。
- 相続開始直前まで被相続人が1人で居住していた住宅であること
- 1981年5月31日以前に建築された旧耐震基準の建物であること
- 譲渡時までに耐震リフォームを実施するか、更地にして売却すること
- 相続開始日から3年を経過する年の年末までに売却すること
- 親族間売買などの適用除外に該当しないこと
この特例が適用されれば、譲渡所得が3,000万円まで非課税となります。
空き家の売却はタイミングを逃すと特例対象外となるため、早めの売却計画と制度確認が不可欠です。
不動産売却はどんな状況でも税金対策の余地がある
不動産売却時にかかる税金は金額が大きくなりがちですが、その反面、さまざまな節税策や特例制度が用意されており多くのケースで税金対策の余地があります。
取得費の計上や特別控除の活用、売却時期の調整など、状況に応じて適切な対策を講じれば数十万円から数百万円単位で手取り額を増やすことが可能です。
自分だけで判断が難しい場合は、不動産会社や税理士といった専門家に相談することで、思わぬ節税策が見つかることもあります。
- 買換え特例や損益通算および繰越控除など
- 住宅ローン控除制度
また、上記のような制度は原則、年ごとの更新となっており、今後は変更される可能性があるため、最新の情報を知っておくことも重要です。
正しい知識を持って対応すれば、不動産売却において税金で損をするリスクを大きく減らすことができます。
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