不動産売買では、不動産会社から事前に査定価格を算出してもらい、それを基準に売り出し価格を設定するのが一般的です。
ただ、査定価格はどのような仕組みで算出されるのか、売り出し価格や成約価格との違いは何なのかなどは、知らない方も少なくありません。
査定額を「そのまま売り出し価格」と捉える方も多い一方で、実際の売却では成約価格と一致しないことも多いです。
この記事では、不動産の査定額の仕組みや価格の決まり方、注意点をわかりやすく解説し、納得できる売却を実現するためのポイントを紹介していきます。


宅地建物取引士/2級FP技能士/住宅ローンアドバイザー
賃貸仲介・売買仲介・賃貸管理会社を経て独立。2022年に法人設立後、現在は都心部で不動産事業を展開しつつ、WEBメディアでの監修や執筆にも注力している。
●城都不動産株式会社公式ホームページ
https://ryoestate.com/
閉じる
不動産の査定価格・売り出し価格・成約価格とは?
不動産の査定価格│不動産売却の見積もり価格
不動産の査定価格は、不動産会社がおこなう無料査定の算出価格を指すことが多いです。
より具体的に言えば、通常3ヵ月程度で成約して、かつその間に大きな外的要因の変化がない前提の見積もり価格であることが多いです。
不動産の査定価格を決める要因としては、下記の要素などが一般的です。
- 築年数・間取・構造
- 日当たりや風通し
- 土地の形状
- 周辺環境
- 不動産の管理状況
- 耐震対策の有無
- その他の安定生活を脅かす要素の有無
査定価格はあくまで各不動産会社が自社と契約した場合の見積もり価格を前提としているので、各社の営業力や得意な物件タイプなどによっても価格は異なる可能性があります。
不動産の売り出し価格│売買市場へ出す際の言い値
不動産査定の結果を鑑みて、売主は仲介業者と相談をして売り出し価格を設定します。
売り出し価格は査定価格と同じ額にするケースもありますが、査定価格より高値に設定する場合も、より低値に設定する場合もあります。

売却プラン | 査定価格 | スタンダート | チャレンジ | スピード |
---|---|---|---|---|
売出提案価格 | 2,184万円 | 2,180万円~2,380万円 | 2,380万円~2,580万円 | 1,980万円~2,180万円 |
査定価格乖離率 | – | 99.8%~108.9% | 108.9%~118.1% | 90.6%~99.8% |
90日以内成約割合 | – | 81% | 72% | 88% |
通常より早期での成約を希望する場合は査定価格より金額を下げて売り出すケースもありますが、一般的にはより高値での売却を目指すため、査定額と同等かそれ以上の金額に売り出し価格を設定するケースが多いです。
不動産の成約価格(売却価格)│売主と買主の合意価格
売り出した不動産は、最終的に売主と買主の合意に基づき決定した価格(取引価格)によって売買されます。
相場よりも高値で売り出されている場合は、買主側から値下げの要求があり、それを売主が承諾すれば契約をおこなうといったフローになります。
一般的には、内覧後に上記のような不動産購入申込書が買主側から届き、ここに希望価格なども含めた取引条件が記載されています。
売主側はこの条件を承認するのか拒否するのかを決めますが、改めて売主・買主間で相談をして、折衷案で調整するケースなども多いです。
不動産の査定価格と成約価格の差
不動産の査定価格と成約価格には、一定の乖離が生じることも珍しくありません。
一般的に、不動産の成約価格は査定価格から10~30%程度の差が生じることがあります。
例えば、査定価格が3,000万円であっても、周辺環境の変化やタイミングのズレ、売主の事情などにより、最終的な成約価格が2,700万円前後に落ち込むことも珍しくありません。
特に売却を急いでいる場合や、広告の打ち出し方が弱かった場合などは、価格交渉の中で値下げに応じる必要が出てきやすくなります。
逆に、売り出し価格を高めに設定してもタイミングよく複数の購入希望者が現れた場合には、競争入札により査定価格以上で成約することもあります。
査定依頼の種類|机上査定と訪問査定の違い
不動産の査定依頼には、主に「机上査定」と「訪問査定」の2種類があります。
机上査定は、過去の取引事例や公的データをもとに、現地を見ずにおおよその価格を算出する方法です。短時間で結果がわかる手軽さが魅力ですが、あくまで概算であるため精度には限界があります。
一方の訪問査定は、担当者が現地を確認し、建物の状態や周辺環境、日照・騒音などの要素も加味して価格を判断する方法です。時間はかかりますが、より正確な査定額を得られます。
机上査定
机上査定(簡易査定)は、過去の売買データや公的な地価情報などをもとに、物件の立地や面積、築年数などの基本情報からおおよその査定額を算出する方法です。
査定は不動産会社の社内データベースやレインズ(不動産流通標準情報システム)などを活用して行われ、一般的にはメールや電話で簡単に依頼できます。
現地調査が不要なため、迅速に結果が得られるのが最大のメリットであり、複数社の査定額を比較したい初期段階に適しています。
ただし、建物の状態や周辺環境といった個別要素が反映されないため、実際の売却価格とのズレが生じやすい点には注意が必要です。
訪問査定
訪問査定(現地査定)は、不動産会社の担当者が実際に物件を訪れ、建物の状態や敷地条件、周辺環境などを細かく確認したうえで査定額を算出する方法です。
現地調査では、以下のような項目が確認されます。
- 建物の劣化状況(ひび割れ・傾き・修繕履歴など)
- 敷地の形状・接道状況・境界明示の有無
- 日照・騒音・近隣施設などの周辺環境
- 管理状態・設備の充実度
また、査定の際には登記簿謄本や間取り図、権利証などの資料を用意しておくと、より正確な評価が可能になります。
机上査定に比べて時間や手間はかかりますが、売出価格の判断材料として最も信頼性の高い査定方法です。
不動産の査定額を算出する方法
不動産の査定額は、単なる勘や主観で決まるものではなく、一定の評価手法に基づいて算出されています。
不動産会社は物件の種類や用途に応じて、以下3つの代表的な手法を使い分けながら査定額を決定します。
- 原価法
- 取引事例比較法
- 収益還元法
それぞれの方法には適用される物件の特性や、強み・弱みがあります。
査定結果を正しく理解するためには、どの手法が使われたのかを把握しておくことが重要です。以下では、それぞれの算出方法について詳しく解説します。
原価法

原価法とは、対象の不動産を仮に同じ条件で再建築・造成した場合にかかる費用(再調達原価)をもとに、現在の建物価値を算出する方法です。
この手法では、「再調達原価」に「建物の経年劣化による減価(減価修正)」を加味し、残存価値を計算します。
主に戸建て住宅や築年数の経過した物件、また建物比率の高い資産に対して適用されることが多いです。
計算式は以下のように表されます。
査定価格 = 再調達原価 ×(残存年数 ÷ 耐用年数)
ただし、築年数が古い物件では評価が大きく下がる傾向があるため、建物の資産価値を重視する場合には慎重な解釈が必要です。
取引事例比較法

取引事例比較法は、査定対象物件と類似する条件の不動産が、過去にどのような価格で取引されたかを基に査定額を導き出す方法です。
マンションや土地など、同一エリア内での成約事例が豊富な物件に適しており、実勢価格に近い査定額が算出されやすいという特長があります。
査定では、立地や築年数、広さ、接道状況などが近い複数の事例を参照し、「時点修正(取引時期の差)」「地域要因」「個別的要因」「事情補正」といった補正要素を加味して調整を行います。
データが豊富な都市部では最も信頼性の高い手法とされており、実際の売却価格に近い査定結果が期待できます。
収益還元法

収益還元法は、不動産が将来生み出すと予想される収益(家賃収入など)を基に、その不動産の現在価値を算出する方法です。
主にアパートやマンション一棟物件など、投資目的で保有される収益不動産に対して用いられます。
収益還元法には以下の2つの手法があります。
- 直接還元法:安定的な収益が見込める物件に対し、年間収益を還元利回りで割り戻して評価する方法。
- DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法):将来の収益と売却時価を予測し、割引現在価値に換算して評価する方法。
収益性や空室率、修繕コスト、地域の賃料相場などが大きく影響するため、適切な数値設定と分析力が問われる高度な査定手法です。
不動産の売り出し価格を決める際の注意点
不動産の売却では売り出し価格を最終的に売主が決定します。
このとき、売り出し価格を高く設定しすぎると購入希望者から敬遠される原因となり、結果的に長期化や価格の下落を招くリスクがあります。
一方で、安く設定しすぎても損をするため、希望価格と相場のバランスを冷静に見極める必要があります。
ここからは、売り出し価格を設定する際の注意点を解説します。
注意点1】売り出し価格を高く設定すると売却期間が長引く
売主の希望を優先して売り出し価格を高めに設定した場合、購入希望者の目に「割高な物件」と映り内見すら入らないケースもあります。
そのため、売り出し価格を高めに設定する場合、売れ残るリスクは大幅に上がり場合によっては買い手が全くつかない可能性も考慮する必要があります。
特に、売却のスケジュールに余裕がないと売れ残りが続くことで焦りが生まれ、最終的に相場よりも値下げをしてしまうケースもあります。
売り出し価格を高値に設定してじっくり売るなら、スケジュールを整理しておく必要があります。
注意点2】周辺相場との乖離がないかチェックする
不動産会社の査定価格が他の会社の査定結果や売り出し物件の価格相場と乖離している可能性も十分あります。
仮に査定価格が実際の相場よりも大幅に低値の場合、何も考えずに契約から売却まで進めてしまうと損をしてしまいます。
まずは不動産査定を依頼する前に売却相場を調査しておき、不動産会社への査定も複数社に依頼した上で結果を比較するのがおすすめです。
注意点3】売り出し価格を高めに設定したのに成約価格が相場より安くなることも
前述の通り、売り出し価格を高値に設定することで成約がなかなか獲れず、期限が近付き焦って値下げをしてしまうケースもあります。
結果、売り出し価格を相場より高く設定していたのに成約価格が相場より低くなってしまったということも十分あり得ます。
価格査定を活用して失敗しない不動産売却を実現するには
不動産売却を成功させるには、査定額を鵜呑みにせず、「売れる価格」と「売りたい価格」のバランスを見極めることが重要です。
まずは複数の不動産会社に査定を依頼し、査定価格に差がある場合はその根拠や査定手法を比較検討しましょう。
また、単に高額査定を提示する業者ではなく、市場動向や販売戦略を丁寧に説明してくれる会社を選ぶことが、納得のいく売却につながります。