他の相続人や配偶者など、所有者が複数いる場合、複数の所有者を共有名義人(共有名義)と言います。
こうした共有名義のマンションを売却する際は、いくつかのポイントに注意する必要があります。
今回は、共有名義のマンションは売却ができるのか、売却する際の注意点も交えて解説していきます。
共有名義・共有持分とは?
上記のようにマンションを3名の相続人が相続する場合、相続人それぞれがマンションに対してどれくらいの権利を持つかという所有権の割合が、共有持分となります。
上記の場合、相続人3名の共有持分が等しく1/3(約33%)ということになります。
例えば共有名義人3名の共有持分が等しく1/3のマンションが900万円で売れた場合、代金は300万円ずつに分割されます。
一方で、共有持分は割合が高い人が、その不動産に対して主導権を持つ訳では必ずしもありません。
売買や増改築などの決定をおこなう際は、持分割合に関わらず、共有名義人全員の同意が必要です。
共有名義のマンションを売却する4つの方法
方法1】共有名義人全員の同意のもとマンションを売却
最もオーソドックスなのが、マンション全体を売却する方法です。この場合、共有名義人全員が売却に同意をしている必要があります。
第二百五十一条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
2 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。
共有名義人全員の同意が得られれば、一人が代表者となり、不動産会社との契約などを進めながら、売却手続きをおこないます。
方法2】マンションの共有持分のみを売却
マンションそのものを売却するのではなく、共有持分のみを売却する方法もあります。
共有名義人A・B・Cが共有持分を1/3ずつ所有している場合、共有名義人Aが1/3の共有持分を売却し、BとCは共有持分をそのまま持ち続けるというケースなどがあります。
共有持分のみの価格は不動産の市場価格×持分の割合×70%~30%※ほどとなり、マンションそのものを売る場合より安くなってしまう点に注意が必要です。
※共有持分のみの場合、一般的に物件を所有しているケースよりも認められた権利や自由度が少ないため
共有持分のみを売却する場合は、下記などが買い手になることが一般的です。
- 他の共有名義人
- 共有持分専門の買取業者
方法3】単独名義にしてマンションを売却
共有名義人のうちの一人に共有持分を売り、単独名義にした後でマンションを売る方法です。
共有名義の状態が解消されれば、所有者がマンションを自由に扱うことができます。
ただし、前述の通り共有持分のみだと売却価格が低くなるので、共有名義人全員が売却に同意している状態であれば、マンション全体を売却した方が良いでしょう。
また、マンションの資産価値が3,000万円とした場合、3,000万円×2/3×70%~30%=1,400万円~600万円となりますが、こちらの購入費用を支払わなければいけないのも大きな負担になります。
方法4】マンション等を売却して換価分割する
換価分割とは、相続にあたって全ての遺産を換金した上で分配する方法です。
この方法をとる場合、マンションだけでなく全ての遺産が換金されます。
共有名義のマンションを売却する流れ【全6ステップ】
- マンションの価格と持分割合を整理する
- 共有名義人同士で相談をする
- 不動産会社と契約・販売活動
- 売買契約
- 決済・引き渡し
- 確定申告
【Step1】マンションの価格と持分割合を整理する
マンションをどうするかを決める前に、まずは現在のマンションの価格と、共有持分の割合を整理する必要があります。
マンションを売却した時の価格は、不動産会社に査定を依頼してもらえば分かります。
不動産会社ごとに査定価格は異なるため、複数社に査定を依頼することをおすすめします。
共有持分の割合については、登記簿を確認すれば分かります。
【Step2】共有名義人同士で相談をする
現在の市場価格(見積もり)と共有持分が分かったら、売却によって共有名義人それぞれにいくらが分割されるかなどの検討がつきます。
この内容を元に、共有名義人同士でマンションをどうするか話し合いをおこないます。
売却をするということになったら、一人が代表者となり、不動産会社との契約などを進めていくケースが多いです。
【Step3】不動産会社と契約・販売活動
不動産会社と媒介契約を結んだら、マンションの販売が開始します。
媒介契約の際に、共有名義のマンションは委任状を仲介業者のもと作成します。
共有名義人A・B・Cのうち、Aが代表者(代理人)となって不動産会社との契約やその他の判断を行う場合、Aに対して下記のような委任状を作成することで、BとCの意に沿わない売却が行われるのを防ぎます。
- 代理人(受任者)の住所氏名
- 売買物件の表示項目
- 委任の範囲(売買金額・手付金額・引き渡し時期・残代金の支払時期・違約時の金額・契約解除の期限・所有権移転登記の日・費用の負担に関する条件)
- 委任状の有効期限
- 委任状を作成した日付
- 委任者・代理人の住所氏名、実印の押印
重要なのは、委任状にマンションの売却価格の最低条件などを記載することで、代理人はその条件に沿った売買しかできなくなるという点です。
委任状の内容に合わせて、代表者(代理人)は仲介業者とのやり取りなどをおこない、購入希望者が現れたら、売買契約を結びます。
【Step4】売買契約
売買契約では原則、共有名義人全員が売主側で同席します。
この際、共有名義人全員の印鑑証明書・実印・本人確認書類が必要になります。
不動産売買契約書には共有名義人全員の氏名と持分割合を記入する箇所があるので、こちらを記入した上で契約をおこないます。
また、売買契約を結んだ段階で買主から手付金を受け取りますが、この手付金の分割も委任状の内容などに基づいて行われます。
【Step5】決済・引き渡し
買主側の住宅ローン審査などを待った後、決済と引き渡しがおこなわれます。
手付金以外の残額を売主側が受け取り、持分割合に応じて分割をします。
【Step6】確定申告
共有名義のマンションの売却では、売却代金だけでなく、かかる税金・費用も持分割合に応じて負担します。
売却益(譲渡所得)が発生した場合などは、(元)共有名義人それぞれが個別に確定申告をおこなう必要があります。
共有名義のマンション売却で必要な書類【一覧】
共有名義のマンションを売却する場合は、主に以下の書類が必要となります。
- 登記識別情報通知書または登記済権利証
- 境界確認書
- 地積測量図
- 共有名義者全員の身分証明書、実印、印鑑証明書、住民票
共有名義のマンションを売却する際の注意点
注意点1】単独でできる売却手続きとできない売却手続きがある
前述の通り、共有名義の場合は共有持分のみの売却は可能ですが、マンション全体を売却したり、増改築や賃貸に出すといったりした手続きはできません。
マンション全体を売却する場合は、共有名義人全員の同意が必要です。
注意点2】第三者に持分のみを売るのは原則できない
共有持分のみを、全く知らない第三者に売ることは原則できません。
共有持分のみだと上記の通り、マンションに対して持つ権利が制限されているため、購入する側のメリットもあまりありません。
共有持分のみを売る場合は、他の共有名義人か共有持分の買取業者が対象となるケースが一般的です。
注意点3】委任状通りに売却できたのに共有名義人が承諾しない場合もある
前述の通り、共有名義のマンションを売る場合は1人が代理人となり、他の名義人が売却を承諾できる条件を委任状に記載するのが一般的です。
ただし、委任状の条件通り売却をしても、他の名義人が何らかの理由で売買契約書にサインせず、売買が成立しないというケースも考えられます。
この場合はサインしない名義人を説得する必要がありますが、話し合いがこじれそうな場合は弁護士を立てるケースもあります。