マンションの高層階に住むことで人体に悪影響が及ぶという、いわゆる「高層階病」というものの存在がたまに話題になります。
中には、「イギリスでは妊婦・子どもが高層階(4階以上)に住むことを制限している」という出元不明の話もあります。
実際のところ、マンションの高層階に住むことで体調不良に陥るようなケースはあるのでしょうか?
【免許登録】
宅地建物取引業免許:国土交通大臣(4)第7845号
一級建築士事務所登録:東京都知事 第62093号(東京本社)
特定建設業許可:東京都知事 (特-2) 第135078号(東京本社)
不動産特定共同事業許可:東京都知事 第134号(東京本社)
賃貸住宅管理業登録:国土交通大臣(1)第1722号(東京本社)
高層階病に繋がりそうな考えられる要因
実際に高層階に住むことが体調不良につながると仮定した場合、考えられる場合は以下の2つです。
- 気圧
- わずかな揺れ
気圧
高層階ほど気圧は低くなりますが、仮にマンションの最上階を地上130mと考えても、地上との気圧差は13h~16hPaほどしかありません。
これは、一般的には人体に影響があるほどの気圧差ではありません。
しかし、気圧による変化の感じ方は人それぞれで、中には台風が近づくだけで不調を訴える方もいます。
晴れの日と曇りの日の気圧差が7h~13 hPaほどなので、天気によって不調を感じるなど気圧差に敏感な方は、高層階に住むことで同様の影響を受けることも考えられます。
- 片頭痛持ちの方
- 自律神経が敏感な方
- 関節リウマチや持病がある方
このような方は、他の方よりもマンション高層階で倦怠感、眠気、頭痛、めまいなどの症状を感じやすい可能性があります。
階数 | 高さ(m) | 気圧(hPa) | 気圧差(地上比) | 相当するケース |
---|---|---|---|---|
地上 | 0m | 1013 hPa | 0 hPa | 標準気圧(晴天時の海面) |
20階 | 約60m | 約1007 hPa | -6 hPa | 曇りの日の気圧低下(例:晴天→曇天への変化) |
25階 | 約75m | 約1004 hPa | -9 hPa | 軽い低気圧の影響(例:雨が降る前の曇り空) |
30階 | 約90m | 約1001 hPa | -12 hPa | 低気圧接近時(例:秋雨前線・発達した曇天) |
35階 | 約105m | 約998 hPa | -15 hPa | 強い低気圧(例:日本海側で発達する低気圧) |
40階 | 約120m | 約995 hPa | -18 hPa | 台風の影響を受ける範囲(遠い台風接近時) |
45階 | 約135m | 約992 hPa | -21 hPa | 発達した低気圧(例:爆弾低気圧による暴風) |
※階数と高さ・地上との気圧差に関しては、それぞれのマンションの構造によって異なるため、一概には言えません。
わずかな揺れ
近年建築されたタワマンは敢えて大きく揺れることで地震に耐える柔構造を採用しています。
そのため高層マンションは低層のマンション・アパートよりも揺れやすくなっています。
これは大地震などを想定してのもので、強風などで日常的に大きな揺れを感じる訳ではありません。
ただし、振動自体は人体に悪影響を及ぼすリスクがあり、循環器系や代謝への影響や睡眠障害、ストレスなどに繋がる可能性があります。
とはいえ、高層階で暮らすことで感じる揺れは、一般的に悪影響を及ぼす振動の基準と比較すると非常に微小です。
高層階病が広まった要因として考えられるもの
高層階に住むことと体調不良の因果関係は証明されてはおらず、海外では高層階への居住が制限されているという話も、あくまで噂レベルのものです。
なぜ、このような話が広まってしまったのでしょうか?考えられる要因を紹介していきます。
気圧差や振動の拡大解釈
先ほど、高層階病があると仮定して考えられる要因を2つ挙げましたが、気圧差・振動はどちらも程度によっては人体に悪影響を及ぼすものです。
とはいえ、前述の通りわずかな気圧差は天気の違いによってもあるものなので、住む階が高いからと言ってすぐに影響が出るものではありません。
影響を拡大解釈した結果、高い階に住むことは体に悪いという図式が出来上がってしまった可能性があります。
因果関係の分からない調査結果
日本では一度、厚生省が1994年に神奈川県内の女性1200人を対象に調査をおこないましたが、流産経験者の割合は一戸建てに住む方が約8%なのに対し、マンションの6~9階が約19%、10階以上が約39%という結果でした。

参考:※出典:厚生省心身障害研究報告書(平成5年度)「居住環境の妊婦に及ぼす健康影響についてより
この調査では、本当に高層階に住むことが流産と関係しているのかを突き止めることはなかったため、正確な因果関係は分かりません。
こうしたデータが、噂の流布を広めた可能性があります。
タワマン住民への反発
特に首都圏では狭い土地を使って大人数を収容できる高いマンションの需要が高く、新築マンションのうち4分の1がこうした高層マンションに属すると言われています。
また、2000年代に流行したヒルズ族のように、タワマンに住むことは成功者という図式は一般的に浸透していますし、デベロッパーもこうしたブランド性を生かしたPRをおこなっています。
しかし、中にはこのような風潮に反発する層も多く、実際に台風などでタワマンの設備の故障のニュースなどがあると、批判的な声がネット上で多く挙がったります。
タワマンに住むとデメリットがあるという話に食いつく層も多く、噂が広まったとも考えられます。
高層階に住むことで考えられるリスク
孤独感や社会的孤立
高層マンションでは住人同士の物理的な距離が広がることで、コミュニティの結束力が低下する可能性があります。
また、共有スペースが少ないかない場合、交流の機会が減少し、孤独感や社会的孤立を感じる人が増えるケースもあります。
これが持続すると、精神的な健康問題、例えばうつ病や不安障害を引き起こす可能性があります。
運動不足
高層マンションの住人は、エレベーターを頻繁に利用するため、運動不足になりがちです。
日常的に階段の昇降が減少すれば、定期的な有酸素運動の機会が失われます。
これは、長期的には生活習慣病のリスクを高める原因にもなります。
特に肥満や糖尿病、心疾患などのリスクが高まります。
自然への接触の減少
高層階に住むと、公園や緑地へのアクセスが制限され、自然との接触が減少します。
自然との接触は、ストレスの緩和、気分の改善、そして免疫系の機能強化に寄与します。
そのため、自然接触の減少は、心理的、身体的健康に影響を及ぼすリスクが高まります。
災害時の避難が難しい
高層建築物では、地震や火災などの緊急事態が発生した場合、適切な避難ルートが使えないや、エレベーターの利用ができないなど、避難が困難になる状況に陥りやすいです。
自分の命が危機に瀕したとき、住人の多くは心理的な不安を感じ、また実際の緊急事態時には命に関わる問題に直面する可能性があります。
小さい子供の社会的スキルや一般感覚を養うのが難しい
高層マンションの住人は一般的に、社会的なつながりが少なくなる傾向にあります。
これは子供たちの社会的スキルの発達に影響を及ぼします。
他の子供たちと一緒に遊ぶことで、共感や交渉、問題解決などの重要な社会的スキルを学ぶ機会がどうしても限られてしまう可能性があります。
例えば団地暮らしの子供は同じ団地住みの子供たちと遊ぶ中で周りの人と理解しあおうとするコミュニケーションが生まれたり、おもちゃを分け合ったりする中で数学的な感覚が芽生えたりしやすい可能性があります。
小さい子供の高所からの転落リスク
高層マンションでは、窓やバルコニーからの転落リスクが増えます。
子供たちは好奇心旺盛で、危険を理解する能力が未熟なため、このリスクは特に高まります。
転落事故防止のため、子どもがまだ小さいうちはベランダやバルコニーに近づけないようにしたり、上り台になるようなものを置かないなどの工夫を凝らしましょう。
高層階病の根拠は今のところ厳密には無い
2025年時点で、高層階病が存在する明確な根拠はありません。
現時点で健康な方が高層階に移り住んだとしても、体調に大きな悪影響がある可能性は低いと考えられます。
ただし、前述の通り、持病などが原因で気圧の低いところに行くと頭痛や倦怠感などの症状が発生しやすい方は、マンション高層階に住むことで症状が発生する可能性は考えられます。
実際、高層マンションは大手デベロッパーが力を入れているため設備の質が非常に高く、快適な暮らしを手に入れられるのでおすすめです。
しかしながら、高層マンションには高層階病とは異なる以下のようなデメリットもあり、一概にメリットばかりという訳でもありません。
- 階の登り降りが面倒
- 大規模修繕を控えている物件が多い
- 低層階と高層階の格差
高層マンションに暮らす際は、こうしたリスクも考えて検討しましょう。