不動産売買を第三者とではなく、親族間でおこなうことも珍しくありません。
この際、2者間で価格等の条件を勝手に決めると、脱税などの違反が起こってしまいかねません。
親族間での売買とはいえ、不動産取引のルールを踏襲した上で手続きしなければいけないので注意しましょう。
親族間売買とは「個人間売買」の一種
親族間売買は、不動産取引の特殊な形態の一つであり、家族や近親者間で行われる売買を指します。
この取引は、通常の市場価格と異なる価格設定がされることが多く、税務上の扱いや法的な観点からも特別な注意が必要です。
特に、不動産の取引には高い金額が関わるため、親族間であっても正式な契約書の作成が必須です。
これは将来のトラブルを防ぐための重要なステップです。
税務上では、「親族間売買」における「親族」の定義が重要になります。
民法上における親族は、6親等以内の血族、配偶者、及び3親等以内の姻族と定義していますが、不動産の親族間売買の「親族」の範囲に決まりはありません。
主に、税務署はこの取引において「みなし贈与」が発生しているか否かを確認することに重点を置いており、相続人に該当する親族が主な対象となります。
また、不動産の売買には税務上の特例が適用される場合がありますが、これを受けるためには特定の条件を満たす親族である必要があります。
こうした特例を活用することで、税負担を軽減することが可能ですが、適用条件や手続きには細心の注意が必要です。
親族間売買と一般的な不動産売買との違い
親族間売買と一般的な不動産売買では、いくつかの重要な違いが存在します。
- 売買価格の決定方法
- 仲介手数料がかからない
- 税制上の控除や特例の利用
- 住宅ローンの審査過程
ここでは、上記3つの違いについて解説して行きます。
売買価格の決め方
一般的な不動産売買では、市場価格に基づき、売主と買主の間の利害関係によって価格が決定されます。
しかし、親族間売買では売主と買主が親族関係にあるため、売買価格は市場価格よりも低く設定されることが一般的です。
これは、親族間での相続や贈与としての要素が含まれるためです。
ただし、価格が市場価格の80%以下の場合、「みなし贈与」と見なされるリスクがあり、それに伴う税金の影響も考慮する必要があります。
仲介手数料が不要
一般的な不動産売買では、不動産会社を通じて行われるため、仲介手数料が発生します。
しかし、親族間売買の場合は直接取引が可能で、仲介手数料を節約できることが多いです。
ただし、契約書作成や税金処理などの手続きは個人で行う必要があり、その準備には注意が必要です。
税制上の控除・特例の利用可否
一般の不動産売買では、売主には譲渡所得税の特例措置や居住用財産の特例控除が利用できます。
一方で親族間売買では、これらの特例が利用できないことがあります。
例えば、居住用財産の譲渡に関する3000万円の特例控除や、住宅ローン控除などは、親族間取引では適用外となることが多いです。
これは、税務当局が親族間取引における「みなし贈与」や資金の流用を防ぐための措置です。
その結果、譲渡所得税が高額になるリスクがあり、財務計画に影響を与える可能性があります。
住宅ローン審査の違い
住宅ローンに関しても、親族間売買は一般的な不動産取引とは異なる扱いを受けることがあります。
親族間売買の場合、金融機関は住宅ローンが他の目的(例えば事業資金)に転用されるリスクを懸念し、そのため審査が一般の不動産取引に比べて厳格になる傾向があります。
また、一部の金融機関では親族間売買に関する住宅ローンを取り扱わないこともあります。
このため、親族間での不動産取引を考える際には、金融機関との相談が不可欠となります。
親族間売買で最も注意したい「みなし贈与」とは?
不動産売買では、双方の合意があれば価格をいくらに設定しても構いません。
これは親族間売買でも同じですが、身内同士なのであえて価格を低めに設定して、タダ同然で不動産の引き渡しをしようとするケースも多数出てきます。
この時、税務署から「みなし贈与」と見なされ、高額な贈与税を徴収される可能性があります。
税務署からの勧告に応じない場合は脱税となってしまうので、十分注意する必要があります。
親族間売買がみなし贈与と見なされるケース
親族間売買が見なし贈与と見なされるのは、上記の3ケースが代表的です。
- 安値で不動産を売買した
- 不動産を売却する代わりに借金を帳消ししてしまう
- 購入代金と持分割合に差が生じている
前述の通り、みなし贈与かどうかは税務署が調査の上、総合的に判断されます。
中には見逃されているケースも存在しますが、親族間売買は脱税のリスクが高いので、税務署側も力を入れてチェックをしています。
親族間で個人売買を行う場合は、かなり注意をする必要があります。
みなし贈与の具体的事例
ここからは、親族間売買でみなし贈与と見なされる具体的事例を紹介していきます。
例えば、親が所有している時価2,000万円の家を、子供に500万円ほどで売却したとします。
これは、慣例から考えると常識外れの安値と思われます。
このような取引を許してしまうと、国としても相続税を設定している意味がなくなってしまいます。
そのため、本来の時価との価格差1,500万円分を贈与したとみなし、贈与税が課されるのです。
つまり、2,000万円のうち500万円は正当な手続きで取引されたが、残りの1,500万円はタダであげた(贈与した)ということになる訳です。
相続税の税率を計算する方法
では、上記の1,500万円に対していくらの贈与税がかかるのかですが、税率の計算は一般贈与財産と特例贈与財産で異なるので注意が必要です。
区分 | 贈与の内容 | 受諾者のステータス |
---|---|---|
一般贈与財産 | 兄弟・夫婦・親族間の贈与 | 未成年者 |
特例贈与財産 | 直系尊属からの贈与 | 贈与された年の1月1日時点で20歳以上の子・孫 |
一般贈与財産の場合は未成年者が課税者になるので、特例贈与財産の場合よりも税率が低めに設定されています。
課税価格(-110万円) | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | – |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
一方、特例贈与財産の場合は一般贈与財産よりも税率が高くなっていますが、加えて控除額も高めに設定されています。
課税価格(-110万円) | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | – |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円 | 30% | 90万円 |
1,500万円 | 40% | 190万円 |
3,000万円 | 45% | 265万円 |
4,500万円 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
上記の例だと、みなし贈与が1,500万円なので、一般贈与財産の税率だと、単純計算で45%×(1,500万円-110万円)となります。
みなし贈与にならないための適正価格設定の方法
みなし贈与にならないためには、親族間といっても適正価格で取引をすることが大切です。
適正価格で取引をするためには、現在の不動産相場を確認・設定することが不可欠です。
正確な時価を知る方法としては、以下のやり方が挙げられます。
- 路線価を確認する
- 不動産鑑定士に鑑定を依頼する
- 不動産会社に無料査定を依頼する
どうしても仲介業者等を立てずに売買するのであれば、路線価をチェックして価格設定をするのがおすすめです。
路線価図は税務署を管轄する国税庁が公表しているので、こちらの価格に則っていれば、みなし贈与となる可能性が低いためです。
ただ、路線価図の読み方は初心者には難しい点も多々あるので、以下のガイドをチェックしながらおこなうことをおすすめします。
不動産の親族間売買は仲介業者を立てる場合・立てない場合がある
不動産の親族間売買は、仲介業者を立てるか、立てないかで大きく変わります。
第三者に対して不動産売却をおこなう場合は仲介業者を立てるのが一般的ですが、親族間売買ではわざわざ仲介業者を立てることなく取引をするケースが多いという実情もあります。
【項目】 | 仲介業者を立てる | 仲介業者を立てない |
---|---|---|
メリット | 契約不成立のリスクや、みなし贈与と見なされる可能性を抑えられる | 仲介手数料を支払わなくて良く、お得 |
デメリット | 業者選び・契約に時間がかかる+仲介手数料の支払いが必要 | トラブルが発生する可能性が高い |
不動産の親族間売買で仲介業者を立てておこなう流れ
- 不動産会社への相談・査定依頼
- 査定・業者選び
- 媒介契約
- 売却活動・部屋のクリーニング
- 内覧対応
- 買付(購入申込書)をもらう
- 売買契約
- 引き渡し・決済
不動産の親族間売買で仲介業者を立てる場合は、一般的な不動産仲介売買の流れとほぼ変わりません。
ただ、第三者向けの広告作成・販売営業などを親族間売買ではせず、もともと売主・買主が決まっている中で仲介業者を立てるのが通常と大きく異なる点です。
不動産の親族間売買で仲介業者を立てずにおこなう流れ
- 売りたい不動産の相場の確認
- 図面や資料の準備
- 売却価格の決定・広告出稿
- 現地確認・問い合わせからの対応
- 価格交渉
- 契約書など諸書類の作成
- 契約・決済
- 引き渡し・アフターフォロー
仲介業者を立てずに親族間売買をおこなう場合は、不動産会社を選び、契約手続きをおこなう必要がありません。
ただ、当事者自身で書類の準備や作成をしなければいけないので、人によっては、より面倒と思うかもしれません。
詳しくは後述しますが、専門家を立てないことでトラブルが起こりやすいので注意が必要です。
不動産仲介業者の仕事は売却の代行だけではない
親族間売買は最初から売る相手が決まっているので、仲介業者に販売営業を代行してもらう必要はないと思われる方も多いでしょう。
ただ、実際に仲介業者がおこなうのは売却の代行だけではありません。
不動産売却が成立した時に業者へ仲介手数料が支払われますが、この手数料は以下のようなサービスの代金も兼ねています。
- 不動産に関する相談
- 専門的な書類の取得・作成
- 検査サービスや住宅ローンの斡旋
- 不動産取引のリーガルチェック
- 税金・権利関係に関するサポート
- 引き渡し後の瑕疵に関する相談…
安全かつ法に則った不動産取引へ導くのも仲介業者の仕事であり、彼らと契約することで売買時に起こるトラブルを大幅に抑えることができます。
素人同士が売買をすると、知らぬ間に法律を違反してしまう可能性が常にあります。
これを防ぐために、仲介手数料を取られて損してしまったとしても、仲介業者を立てるのがおすすめです。
親族間売買は住宅ローン審査に通りにくいので要注意
不動産の親族間売買は、買主の住宅ローン審査通過がかなり厳しくなるので注意しましょう。
銀行は申込者の返済能力の他、不動産取引が正当な手続きを経ておこなわれたかどうかも厳しくチェックされます。
たとえ適正価格で取引できたとしても、税務署に睨まれやすい親族間売買は、金融機関も警戒してしまいがちです。
住宅ローン利用を想定せず取引をするか、事前に仲介業者と相談しておくことをおすすめします。
不動産の親族売買で発生する費用
親族間で所有する不動産を売買した時に発生する費用は、売り手・買い手ともに一般的な不動産売買を行った時と変わりません。
ここでは、売り手と買い手それぞれで発生する費用について解説します。
売り手側で発生する費用
以下は、所有する不動産を売却する側で発生する費用の一覧になります。
費用 | 金額 | 支払いのタイミング |
---|---|---|
印紙税 | 売買金額に応じて金額が決定する | 売買契約を締結したタイミング |
抵当権抹消登記 | 不動産1件につき1,000円 ※戸建て住宅の場合、建物・土地のそれぞれで登録免許税が発生 |
抵当権の抹消登記を行うタイミング |
司法書士への報酬 | 抵当権の抹消など、登記内容の変更手続きを依頼した時支払う報酬※報酬相場は1~3万円程度 | 抵当権の抹消登記などを行うタイミング |
住宅ローンの一括返済手数料 | 住宅ローンの一括返済手数料金額は借入先の金融機関によって変動 | 住宅ローンの残債額を一括返済したタイミング |
仲介手数料 | 売却代金に応じて手数料が変動する※手数料に上限蟻 | 売買契約を締結した時と不動産を引き渡した時に手数料の約50%をそれぞれのタイミングで支払う |
譲渡所得税 | 売却した不動産の所有期間・売却代金によって変動 | 不動産売却を行って利益が出て確定申告を提出した時に支払う |
各種証明書などの発行費用 | 住民票300円/枚 程度 登記事項証明書480円~600円/部など | 各種書類を取り寄せる時 |
なお、親族間で行う不動産売却では、税控除や特例等の軽減措置が利用できない場合があるので、売却後の資金繰りに注意しましょう。
特に売却を行って利益が出た時に納付する譲渡所得税の納付額が高額になるケースがあるので、前もって納付額のシミュレーションを行っておおよその価格を把握しておきましょう。
買い手側で発生する費用
以下は、不動産を購入する側が負担する費用の一覧になります。
費用 | 金額 | 説明 |
---|---|---|
住宅ローン手数料 | 借入先の金融機関によって変動 | 住宅ローンを組むときにかかる費用 |
登記費用 | 所有権移転登記 抵当権設定登記 ※金額は登記の種類や不動産価格、融資金額によって変動 |
不動産所有者名義の変更やローンの担保として設定するときにかかる費用 |
司法書士への報酬 | 依頼した司法書士によって報酬額が変動 | 登記手続きを依頼するときにかかる報酬 |
印紙税 | 売買金額に応じて変動 | 売買契約時と金銭消費貸借契約時に納付 |
不動産取得税 | 取得した不動産の価格(課税標準額)×税率 | 不動産を所得した時にかかる税金 |
不動産の親族間売買を成功させる方法
不動産の親族間売買は、通常の不動産取引と異なり、特別な注意と準備が必要です。
以下のポイントを押さえることで、トラブルを回避し、スムーズな取引を実現できます。
- 必ず売買契約書を作成する
- 他の相続人に売買の件を相談する
- ローン払いができないと分割払いで対応する
- 不動産会社の力を借りる
ここからは、上記4つのポイントについて1つずつ解説します。
必ず売買契約書を作成する
不動産売買契約の時に契約書は必要ですか?という質問を良く受けますが、結論から言うと口頭でも契約は成立します。
ただ、口頭で契約を取り交わすと、後でトラブルが起きた時にどんな条件で契約したか分からないので、売買契約書を作成し、それを読み合わせて合意をするというのが契約の一般的なスタイルになります。
親族間売買でも、リスク回避の為にしっかり売買契約書を作成して押印するのがおすすめです。
契約書があることで内外に正当性を示せる
売買契約書がなくても、当事者間が納得できていれば大きなトラブルに見舞われない可能性は高いです。
ただ、中には他の親族に「認知症ぎみの親を騙したのではないか?」「他の兄弟へ相続されるのが嫌で売買したのではないか?」というあらぬ誤解を受け、裁判に発展する可能性もあります。
この時に、契約書があることで売主は自分の正当性を確保することができます。
売買契約書の作成のみを請け負う不動産会社も多いので、ここはキチンと手続きしておくことをおすすめします。
他の相続人に売買の件を相談する
親族間売買を行う際には、他の相続人とのコミュニケーションが重要です。
特に、相続に関わる不動産取引では、全ての相続人との合意が必要です。
事前に十分な話し合いを行い、全員の了解を得ることで、将来的な紛争を防ぐことができます。
ローン払いができないと分割払いで対応する
親族間売買では、住宅ローンの審査が通常より厳しくなることがあります。
そのため、分割払いの検討が有効な選択肢となります。
これにより、買主は金融機関のローンに頼らずに、直接売主に対して代金を支払うことが可能です。
分割払いの条件は、双方が納得するように契約書に明記することが重要です。
不動産会社の力を借りる
不動産取引の複雑さを考えると、不動産会社や専門家に依頼することが賢明です。
彼らは市場価格の評価、契約書の作成、登記の手続きなど、取引全般のアドバイスを提供できます。
また、税務上の問題や「みなし贈与」に関するリスクの評価も、専門知識を持つ専門家に任せることが安全です。
不動産の親族間売買に関する質問
親族間の不動産売買は特殊な状況であり、多くの疑問が生じることが一般的です。
以下は、そのような状況においてよくある質問と、それに対する解説です。
住宅ローンが借りられない時はどうすればいい?
親族間売買では、住宅ローンの審査が厳しいため、ローンの利用が難しいことがあります。
この場合、代替として検討できる選択肢は分割払いです。
売主と買主が互いに合意の上で支払い条件を定め、契約書に記載します。
これにより、一括支払いの負担を軽減し、両者にとって実行可能な取引が行えます。
ただし、贈与税の課税対象になる可能性があるため、税務の観点からも慎重に検討する必要があります。
親族間売買で仲介売却を利用したら仲介手数料の支払いは発生する?
親族間の不動産売買においても、不動産会社を仲介に使う場合は仲介手数料が発生します。
しかし、親族間取引は売主と買主の特定が事前に決まっているため、通常の仲介取引と比較して手数料の交渉余地がある場合があります。
仲介業者との交渉で手数料の割引などを得ることが可能ですが、これは仲介業者の裁量に依存します。
親族間売買を行ってなお利用できる税制上の特例措置や控除はある?
親族間売買でも、特定の条件を満たせば税制上の特例措置や控除を受けることが可能です。
特に買主側では、住宅ローン控除の適用が受けられる場合があります。
住宅ローン控除は、住宅ローンを組んで不動産を購入した場合に適用される特例で、年末残高の1%を最長13年間、所得税と住民税から控除できます。
この控除は物件や買主が条件を満たせば、親族間売買においても利用することができます。
不動産の親族間売買は専門家へ相談しておくのがおすすめ
不動産の親族間売買は、とにかくリスクを徹底的に排除した上で取引する必要があります。
この時、自分でリスクかどうかを判断せず、専門家の力を借りておくことで、成功率はより高くなります。
仲介業者を立てずに売買する予定だとしても、専門家への相談は必ず実施しましょう。