
不動産の買い替え特例のメリットとは?基本内容・条件と利用するデメリット・リスクを紹介
不動産売却をして利益が発生すると、その利益に対して税金が課されます。
特に持ち家を売って新しい持ち家に住み替える場合はまとまった購入代金が必要なので、税金の支払いで予算が削られてしまう可能性もあります。
このケースを避けるため、買い替え時には税金の支払いを先送りする特例を利用することができます。
上記の特例、通称「買い替え特例」のメリットと利用条件、注意点を解説していきます。
正しく理解をした上で利用していきましょう。
→住み替え成功ガイド!不動産の買い替えで後悔しないポイント・注意点を徹底解説
不動産の買い替え特例(特定の居住用財産の買換えの特例)とは?
不動産の買い替え特例は、正式には「特定の居住用財産の買換えの特例」という名称になります。
前述の通り、持ち家の買い替えに費用がかかり過ぎてしまうと一般層はそこにリスクを感じ、住まいの買い替えに消極的な社会になってしまいます。
近年では空き家問題のように、長年放置された物件が売却・処分できずに野放しにされているケースが問題になっています。
国・自治体としても積極的な住まいの買い替えを促進したいので、こうした特例が制定されているのです。
譲渡所得税の支払いを次の売却に先延ばしする
不動産を売却して利益が発生したら、その額に応じて譲渡所得税を納付しなければいけません。
譲渡所得税の計算式は、以下の通りです。
この時の税率は、期間が5年以内か5年超かによって異なります。
※所有期間は、取得日から売却する年の1月1日までの期間で算出します。
短期譲渡所得(不動産所有期間が5年以内) | 長期譲渡所得(不動産所有期間が5年超) | |
---|---|---|
所得税 | 30.63% | 15.315% |
住民税 | 9% | 5% |
譲渡所得税が発生するケースが増えている
譲渡所得税は、取得時にかかった購入費用などを売却代金が上回る場合に発生します。
しかし、他の中古の商品も同様で、売却価格を購入価格が上回るケースは稀です。
不動産は築年数の経過によって価値が年々減少するので、普通に考えれば購入時の価値を上回るというのは考えられません。
ただ、2013年以前に購入した物件をそれ以降に売却する場合、売却益が発生する可能性は高くなります。
不動産価格の推移(1991年~2020年)
上は、バブル期から2021年現在までの不動産価格推移を簡単にまとめたものです。
1991年~2013年まではバブル崩壊・リーマンショック・東日本大震災に加えて長い不況が続いており、地価は落ち込んでいました。
一方、2013年からはオリンピック特需や異次元金融緩和などの影響から、地価が急激な右肩上がりを見せています。
築年数の経過によって物件の価値自体は減少しますが、それを上回るほどの地価高騰があれば、売却益が発生する可能性も十分あり得ます。
安く購入した物件を高く売れるのは良いことですが、お得に税金を処理するために買い替え特例のルールをしっかり把握しておかなければいけません。
買い替え特例の適用条件まとめ
買い替え特例が適用されるためには、売却する動産と買い替える新居の両方が条件を満たしている必要があります。
事前に条件を把握していないと特例が利用できない可能性もあるので注意しましょう。
売却する不動産の条件
- 売主にとっての自宅と見なされている
- 単身赴任などで住まなくなってから3年以内の売却である
- 他の特例を受けていない
- 日本国内の物件である
- 売却代金が1億円以下
- 居住期間が10年以上
- 床面積:50㎡以上・土地面積・500㎡以下
- 配偶者・近親者間の取引でない
自宅を売却した際には、3,000万円特別控除をおすすめされることが多いです。
こちらの特例は、名前の通り譲渡所得税の発生を最大3,000万円控除することができます。
この控除は買い替え特例と併用できないので、どちらを利用するか判断する必要があります。
それぞれの内容をチェックした上で、どちらを利用すべきか考えておきましょう。
→3000万円特別控除とは?制度の仕組みと適用条件・必要書類を徹底解説
買い替え先の不動産(新居)の条件
買い替え先の条件は、以下の通りです。
- 日本国内の物件である
- 床面積:50㎡以上・土地面積・500㎡以下
- 自宅を売った年の前年~翌年の3年間で買い替える
- 耐火建築物の中古住宅なら築25年以内であること
買い替え特例を利用した住み替えの計算シミュレーション
具体的に、買い替え特例を利用したら税金はどのようになるのでしょうか?
今回は、以下の条件で計算をしていきます。
項目 | 条件 |
---|---|
自宅の購入価格 | 1,000万円 |
売却価格 | 2,000万円 |
売却のタイミング | 取得から3年 |
買い替え先の価格 | 3,000万円 |
この場合、単純計算で譲渡所得=1,000万円。譲渡所得税=税率(39.63%)×1,000万円となります。
買い替え特例を利用すると、譲渡益はこのタイミングで課税対象にはなりません。
その後、もう一度買い替えをおこない、売却益が発生したとします。
この際、発生する譲渡所得税+繰り延べた譲渡所得税(39.63%×1,000万円)が課税対象となります。
一度繰り延べた場合、再度先送りすることはできないので注意しましょう。
買い替え特例を利用するメリット
買い替え特例を利用すると、その時は譲渡所得税の支払いをしなくて済みます。
住み替えには何かとお金がかかるので、負担を減らすことが出来るのは家計にとって大きなメリットでしょう。
生涯住み続けるなら譲渡所得税の負担は0
買い替え特例は、次に住まいを売却した時までに税負担を繰り越すという制度です。
つまり、もし新居に一生住み続けるなら、生前のうちに繰り越された税金を支払わなくて済みます。
買い替え特例と利用するデメリット
次の売却時の負担が大きくなる
買い替え特例は税負担が0になったのではなく、支払いを先送りしているだけです。
「新居を建てたらそこで一生暮らす」と思っていても、災害や転勤などで売却せざるを得なくなるケースは多々あります。
この際にも譲渡所得税が発生したら、2つの税金をまとめて支払わなければいけなくなってしまいます。
税金の支払いを2度先送りにすることはできない
一度繰り越した税金を、もう一度先送りにすることはできません。
また、自宅売却で発生した税金を繰り越し→繰り越した税金を支払い、新居売却で発生した税金を繰り越し→…というように、一度特例を利用したら新居の売却益にかかる税金を繰り越すこともできません。
つまり、買い替え特例を使った後の売却は、必ず負担が大きくなってしまうのです。
買い替え特例を利用すべきケース
買い替え特例を利用する際は、3,000万円特別控除と併用できないことをまず理解しなければいけません。
項目 | 買い替え特例 | 3,000万円特別控除 |
---|---|---|
メリット |
| 3,000万円という高額の枠内で、ほぼ負担を0にできる |
デメリット | 会計上は控除であり、免除ではない | 将来に負担が先送りされる |
3,000万円特別控除なら最大3,000万円を先送りではなく、控除することができます。
譲渡所得が3,000万円を超えるケースは稀であり、この控除を使えばほとんどのケースで負担を0にすることができます。
買い替え特例と違ってノーリスクで利用できるので、ほとんどの場合はこちらの特別控除を利用するのがおすすめです。
一方、売却益が3,000万円を超えており、新居を売る予定がないのであれば買い替え特例の利用をおすすめします。
事業用資産の買い替え特例
ここまで紹介したのは、主に個人が居住用不動産(自宅)を買い替えた場合に利用できる特例でした。
一方、買い替え特例には事業用資産用のものもあります。
賃貸アパートやマンション、ビルなどを買い替える場合は、こちらの特例を利用する必要があります。
事業用資産の買い替え特例は、その大枠は居住用不動産の場合と同じですが、条件や繰り延べ内容が少し異なります。
まず、繰り延べの割合が居住用のように100%ではなく、立地によって条件が限定されています。
- 通常:80%を繰り越し
- 東京都特別区:70%を繰り越し
- 集中地域:25%を繰り越し
また、売却した不動産より買い替え先のほうが価格は高いのか、低いのかによって計算式は変化します。
ケース | 計算式 |
---|---|
売却した不動産の価格≦買い替え先の価格 |
|
売却した不動産の価格>買い替え先の価格 |
|
事業用資産の買い替え特例では組み合わせが重要
事業用資産の買い替え特例を利用する際に重要なのが、売る物件と買う物件の組み合わせです。
規定されている組み合わせは工場や船舶など多岐に渡りますが、一般的に知っておくべき組み合わせがこちらです。
適用期間 | 譲渡資産 | 買換え資産 |
---|---|---|
令和5年12月31日まで | 既成市街地等内の事業用物件またはその敷地で、譲渡した年の1月1日で所有期間10年超 | 既成市街地等内の一定の地域内にある土地やその上の権利・建物・機械装置など |
令和5年3月31日まで | 国内の土地・建物などを譲渡した年の1月1日における所有期間が10年超 | 国内の土地やその上の権利・建物・機械装置など |
売却する収益物件の条件
事業用資産の買い替え特例を利用する場合、まず売却する収益物件が以下の条件をクリアしている必要があります。
- 事業用物件である
- 単身赴任などで住まなくなってから3年以内の売却である
- 他の特例を受けていない
- 日本国内の物件である
- 売却代金が1億円以下
- 居住期間が10年以上
- 床面積:50㎡以上・土地面積・500㎡以下
- 配偶者・近親者間の取引でない
買い替え先の収益物件の条件
一方、買い替え先の収益物件は、以下の条件を満たしている必要があります。
- 事業用物件である
- 譲渡した土地面積の5倍以内
- 物件を売った年の前年~翌年の3年間で買い替える
- 取得後1年以内に事業を開始する
- 他の特例を利用していない
買い替え特例を利用する際は確定申告が必要
不動産を売却して譲渡所得が発生したら、税金を納付するために確定申告をしなければいけません。
買い替え特例を利用するなら、その際に手続きを踏む必要があります。
どのように進めていけば良いのか事前に確認しておきましょう。
→不動産売却時は確定申告が必要!申告の流れ・必要書類の書き方を完全ガイド【決定版】
売却の翌年2月16日~3月15日に申告手続き
確定申告は、売却した翌年の2月16日~3月15日におこないます。
期限を過ぎると遅延金が発生したり、脱税の罪に問われたりするリスクがあるので注意しましょう。
1か月というのは結構な猶予に感じますが、書類の取得に時間がかかることも多いですし、確定申告の経験がないサラリーマンは手続きに戸惑うことが多いので、出来るだけ早く準備をしておきましょう。
買い替え特例を確定申告する際の必要書類
確定申告で買い替え特例を申請する場合は、特定居住用と事業用で必要書類が異なります。
種類 | 必要書類 |
---|---|
特定居住用財産の買い替え特例 |
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事業用資産の買い替え特例 |
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不動産の買い替え特例は良く考えて利用しよう
不動産の買い替え特例は税金の支払いを繰り越せるお得な制度ですが、先送りにされてしまう、他の特例が利用できないといったデメリットも存在します。
この特例を利用しなければ何も起こらなかったのに、利用してしまったことで次の売却時に大きな負担が襲い掛かり破産までいってしまう可能性もあります。
他の特例・控除と比較しながら、注意して利用することをおすすめします。
